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大谷翔平を生み出したフライボール革命のその先…打高投低で変わる10年後の高校野球【高校野球近未来予想図】

高校野球近未来予想図

〜最新トレンドから導きだす5年後、10年後の世界〜

フライボール革命のその先にスモールベースボール復活アリ!?

打高投低が続けば、再び小技にスポットが当たる!?

進化しているのは投手だけではない。高校生の打撃力もまた、近年大きく向上している。特に顕著なのが「技術」よりも「パワー」だ。現在の高校球児は日々の練習にあたりまえのようにウェイトトレーニングを導入している。加えて、賛否はあるが「食トレ」という言葉があるように食事も練習の一環としてとらえ、タンパク質や糖質を十分に摂取し、ひと昔前の高校生とは比べ物にならないほど、ビルドアップしている。

高校野球に金属バットが導入されて以降、「打高投低」の傾向は永続していると言っていい。もちろん、今年がそうであるように1年単位で考えれば投手に逸材の多い「投高打低」の年もある。ただ、それはあくまでも「ドラフトにかかるレベルの選手」を対象とした話。高校野球界全体を見れば間違いなく打者有利の時代が長く続いている。

どの高校の指導者を取材しても必ず出てくるのが「今の高校野球、特に夏は打てなければ勝てない」という言葉だ。

地方大会、そして甲子園を勝ち抜くためには、投手を中心とした守りが基本なのは当然として、どこかで必ず打ち勝つ必要が出てくる。

塁に出たランナーを確実にバントで送り、しぶとく奪った1点をチーム全員で守り抜く……そんな高校野球のイメージはもう過去のもの。

今年で言えば、「パワー」を前面に押し出した強力打線を形成し、センバツに出場した健大高崎(群馬)がその代表格だ。春の時点で新3年生の高校通算本塁打数が合計で230本を超えるなど、「どこからでも長打が出る」打線を武器に、昨年まで秋季関東大会を2年連続で制覇。


2010年代は「機動破壊」をスローガンに掲げた積極的な走塁がフィーチャーされる事が多かったが、現在は「走」より「打」に注目が集まっている。

また、東北の雄・仙台育英(宮城)は打者としてのタイプに関係なくメンバー全員に「スイングスピード140キロ、打球速度145キロ(ティーバッティング時)」を目標とさせるなど、各校が積極的に野手のパワーアップに着手しており「強くスイングする」「強い打球を打つ」ことは現代高校野球界のトレンドとなっている。


おそらく、この流れは今後も続いていくはずだ。特に夏の大会は投手の消耗が激しく、加えて現在は「1週間500球」の球数制限もある。勝ち上がれば勝ち上がるほど、投手は疲弊していくし、ルール上すべての試合で「エースが投げ切る」わけにもいかない。

層の厚いチームは別として、エースと2番手、3番手投手に力の差がある場合はある程度得点を奪われることを想定し、それ以上に得点を奪う必要が出てくる。

さらに言うと、近年のメジャーリーグやプロ野球界のトレンドも、少なからず影響してくるだろう。メジャーリーグでは数年前から「フライボール革命」と呼ばれる現象が起きている。極端な内野シフトを敷くメジャーではゴロを打って「野手の間を抜く」よりもフライを打って「野手の頭を超える」ほうが得点効率が高いと考えられており、積極的にフライ=長打を狙う傾向が顕著になっている。

もちろん高校野球における打撃重視のスタイルと、メジャーのフライボール革命は、やや性質が違う。同一チーム同士でリーグ戦を行い、データが十分に蓄積できるメジャーやプロ野球と違い、高校野球では極端な内野シフトを敷くメリットは少なく、実際にそれ(内野シフト)をやる学校もほとんどない。

また、内野の守備力の差も大きい。メジャーやプロ野球では「転がしたらノーチャンス」かもしれないが、 メジャーリーグでは近年、フライボール革命の反動で三振数が増加。メジャー全体で本塁打と三振がともに増加傾向にあり、それを「大味」「頭を使わない野球」と否定的に見る向きもある。

強いスイング、強い打球を追い求めると、当然そこには穴も生まれる。今春センバツでは、その穴を突いたシーンも多々見られた。

カギとなるのが「高めのストレート」だ。打者に対して「上からたたけ」という指導が主流だったころは、投手は「低めに投げろ」がセオリーだった。しかし、現在のようにレベルスイングや、時としてアッパー気味のスイング軌道がもてはやされるようになると、「高めのストレート」がより効果を発揮しやすくなる。

前述の健大高崎はセンバツ2回戦で天理の達孝太に2安打完封されて敗れたが、この試合の達は高めのストレートを効果的に使い、健大高崎打線をほぼ完璧に封じ込めた。

また、仙台育英は複数の投手を使ってベスト8まで勝ち進んだが、ストレートの際、捕手がミットを高めに構えるシーンが非常に目立ったのも特徴的だった。

センバツでは1大会の本塁打数が9本と18年ぶりの1ケタ台に終わり、「投高打低」が顕著となったが、コロナ禍による実戦不足、各校に好投手が多かったことはもちろん、「強打」への対策を各校がしっかりと行ってきた成果ともいえる。

この流れを踏まえたとき、高校野球の5年後、10年後に起こりうる未来とはなにか――。

もうしばらくは、「打高投低」の時代が続くだろう。前述の球数制限は導入されたばかりで、投手のコマ不足に悩む高校が出てくるのは間違いない。夏の過密日程も、打線を後押しするはずだ。

 しかし、「複数投手制」が高校野球界に根付き、極端な話、メジャーやプロ野球のように投手の分業化が進んだ場合、そう簡単に得点を奪えない時代も来るかもしれない。

投手の負担軽減も叫ばれ続け、少しずつだが日程面も改善されていくはずだ。そうなった場合、エースクラスの好投手を複数擁するような高校相手には「打ち勝つ」ことは困難になってくる。

特に高校野球はトーナメントの一発勝負。リーグ戦と違い「負けても次がある」わけではなく、点の重みはメジャーやプロ野球のそれと比べてもはるかに重い。

となると、重宝されるのはこれまでの高校野球界の「常識」でもあった「点を奪いにいく野球」だ。送りバントや走塁といった細かな野球が、再び重視される時代が来るかもしれない。


近未来の高校野球に必要となるのは、「パワー」も「技術」も兼ね備えたハイブリッドな野球だ。投手は複数揃え、打線は長打も打て、なおかつスピードと小技もきく。「なんでもできる」チームでなければ勝てない時代が必ずやってくる。

当然、今よりも選手の層が重要になり、スタメンの9人ではなくベンチ入りの20人、18人の総合力がモノをいうようになるだろう。

こういった流れは時として「選手を集めやすい強豪私学しか勝てなくなる」といった批判を受けることがあるが、「選手の出場機会が増える」というメリットもある。

少し話題がそれるが、夏の甲子園ではたびたび「ベンチ枠の増加」が訴えられている。特に球数制限の導入以降は投手を複数準備させる必要もあり、既存の18人から多くの地方大会が採用する20人に増やすべきだという意見が圧倒的だ。

 スモールベースボールが再び脚光を浴び、パワーだけでなく技術に光るモノを持つ選手にも再びスポットが当たるようになれば、高校野球は、今よりもっと面白くなる。


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