サーブで鍵をこじあけろ!!
【河野裕輔のエール!第4回】第3戦イタリア戦振り返り
元日本代表でJTサンダーズでも活躍した河野裕輔さんのコラム。第4回は東京オリンピック第3戦のイタリア戦についてをお届けします。
◆眠れる獅子が目覚めた!
7月28日龍神日本の第3戦の相手はイタリア。予選通過に向けて2連勝で来た日本と、初戦カナダとフルセット、第2戦でポーランドにストレート負けと、今一つ調子が上がっていないイタリア。戦前の予想では十分勝利のチャンスがあると思っていた。しかしそこは世界有数の強豪国。コンディションをしっかり調整して、「本気モード」のイタリアを見せてくれた。終わってみれば1-3。強豪国の戦い方というものをまざまざと見せられた試合であった。
しかし今までと大きく違うのは、今までは正直何をどうやったら勝てるのかを明確にすることができなかった。全てにおいて大幅にイタリアの方が上だったからだ。それに比較して今回の試合は「いい状態」を作ることができた場合しっかりと通用しているし、今回うまくいかなかった部分はどうすれば上手くいくのかのビジョンがイメージできた。これを修正し、次戦以降に生かすことができれば予選通過の道は必ず開けると信じている。
◆桁違いのサーブが飛んできた!!
立ち上がりから「サーブで殴られる」シーンが多く、なかなか日本の攻撃の形が作れない。そうなると石川祐希、西田有志に頼るパターンが増える=相手のブロックは石川祐希と西田有志を中心にマークするためブロックにつかまるパターンが増えてしまっていた。これを打開するにはやはりレセプション(サーブレシーブ)をコート中央、アタックライン付近に上げる事が必要になってくるだろう。と、言うのは簡単だがイタリアの強力なサーブをコントロールするのは本当に至難の業である。現にイタリアのOHユアントレーナのジャンプサーブは130キロを超えたそうだ。それに対応していた石川祐希、高橋藍、山本智大、高梨健太らには本当に頭が下がる思いだ。
◆イタリア名物?カテナチオみたいなトータルディフェンス
落ちるはずのボールが落ちない、抜けるはずのスパイクがブロックに当たる、いないはずのブロックがいる。こんな場面を何回も見た。今までの2戦であれば間違いなく通っていた高橋藍のBick(バックセンターからの速い攻撃)や小野寺太志/山内晶大のファーストテンポがブロックに当たる。今まで決まっていたはずのスパイクがつながる。そこからのトランジションでブレイクされてしまう。今まで日本がやってきたことを逆にやられている状況。昔のイタリアサッカーのカテナチオ(鍵)と言われていた鉄壁のディフェンスを彷彿とさせた。まるでネット上やコート上に鍵をかけられているようであった。
こうなった主な原因はやはりレセプション。サーブで崩されているため攻撃の枚数が4枚揃わない。そうなるとイタリアのブロックはよりターゲットを絞りやすい状況になり、更に強固なディフェンスを敷くことができた。
◆サーブターゲット変更!
日本は最初19歳のミケレットを中心に狙っていたように思う。しかし思ったように崩れないためユアントレーナにターゲットを変更。徐々に効果が出たことはアナリストやスタッフのファインプレーである。そしてサーブで攻め続けた結果エースも数本とることができた。やはり「サーブで殴る」ことができないと試合は一気に苦しくなるということがお分かりいただけただろう。
この日はイタリアのリベロ・コラチが絶好調。レセプションにおいてことごとくA/Bパスを供給した。イタリアのレセプションアタックの大半は4枚攻撃であった。
◆日本に見えた光明
日本が強豪国と試合をする場合、今まではとにかく「高さとパワーにやられた」との表現をよく目にしていたが、今回については高さ負けでもパワー負けでもない。「システムの崩しあい」において相手が勝ったのだ。サーブの殴り合いに負けたからトータルディフェンスにおいてイタリアがより優位だったし、4枚攻撃を仕掛けられる回数で負けたからレセプションアタックの決定率もイタリアが勝った。
最も重要な「サーブ」という要素において、日本はまだまだ進化の余地があると考える。ボールコントロールや、A/Bパスが供給されたときの攻撃は決して引けを取るものではなかったし十分ブロックもできていた(石川や高梨がザイツェフをブロックした時は本当に震えた)。さらにディグにおいても、ディフェンスシステムが機能した時は十分対応できていたし、システムにはまらなかった時でもL山本を中心にディグで対応できているシーンは沢山あった。これは高さ負けでもパワー負けでも何でもない。正々堂々システム勝負を挑んだ結果であるとの証明になるであろう。
◆もう一段階日本が「超進化」するために
今日の敗戦は、冒頭にも述べさせてもらったがワンチャンスあるかな?と思っただけに個人的にものすごく悔しい。ものすごく悔しいが、この先日本が進むべき道を見せてもらったような気がしている。日本は4枚攻撃やトータルディフェンスに取り組んでまだ数年。強豪国は10年以上前から取り組んでいる。ここの「慣れ」という要素においては現時点ではどうすることもできないが、精度を上げるための微調整については可能であると考える。例えばリードブロックで2枚来るのであれば、Bickを打つコースをもう10センチ厳しくする、というように。
◆総括して
結果は悔しい1‐3負けではあるが、日本にとっての収穫が全くない試合ということではない。一番うまくいかなかった要因は「サーブで殴られたこと」であるが、これは現代バレーにおける「システムの崩しあい」においてどのチームも同じである。だからこそサーブ戦略の重要性は増す一方であるし、レセプションアタックにおける攻撃枚数確保は標準装備していないと勝つことは難しいといえる。今日の試合において、日本がやりたかったことのほとんどをイタリアがやって見せてくれた。それは戦術遂行だけではなく遂行時の精度も含めて。いつか絶対にやり返そう。今の日本ならそれができる。まだまだ進化の途中なのだから。
◆最後にお願いです
今の育成世代の指導者の皆様、今日の試合をご覧になられただろうか?どうか参考にならないと思わずに試合を見て頂きたい。世界はサーブで攻めないと勝てない時代になっている。サーブミスは絶対にダメという概念を是非捨ててほしい。その分レセプションアタックを確実に取ることに意識を向けて頂きたい。
あなた達が育成してきた選手が、サーブミスを怖がる選手だったり、入れることがすべての選手であるならば、どうか思い切って狙う事、強く打つことにチャレンジするよう助言して頂きたい。狙ったミスはリスクと割り切ってレセプションアタックに臨むようアドバイスを頂きたい。日本が進化し続けるために。
河野 裕輔 プロフィール
河野 裕輔(かわの ゆうすけ)
1975年8月1日生まれ ポジション OP.OH 古河4ますらおクラブ-古河2中-足利工大附高(現足利大附高)-中央大学-JTサンダーズ(現JTサンダーズ広島) 現在社業の傍ら、V.TVにて解説者、オーカバレーボールスクール埼玉校にてコーチ業を勉強中。
文責:河野裕輔
写真:FIVB
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公開日:2021.07.29