勝利が決したなら、相手をあまり追い詰めるな
大軍の指揮を託される将軍には、決して疎かにしてはらない鉄則がある。高い丘の上に陣取っている敵軍に対し、下から攻めのぼってはならないというのもその一つならば、丘を背にして攻撃して来る敵軍を迎撃してはならないというのも同じである。
なぜなら、下方から上に攻めのぼろうとすれば、どうしても動きは鈍く、勢いが削がれるから。敵軍の前まで来たときには疲労困憊していて、まともに戦える状態にない。これでは不利を免れず、やすやすと討ち取られるのが落ちであった。
また丘を背に攻撃して来る者は退くのが困難であることから、死に物狂いに戦うしかない。わずかな生存の望みに賭ける彼らの鋭鋒は手強く、これをまともに相手にしていては命がいくつあっても足りない。
ゆえに正面切っての迎撃を極力避け、鋭鋒の鈍るのを待てというのである。同じように、見せかけで敗走する敵軍を追撃してはならず、包囲した敵軍には逃げ口を残しておき、故国に撤退する敵軍を執拗に追撃してはならない。
退路を断たれた敵軍は死中に活路を見出そうと死に物狂いでかかって来る。そんな奮戦をされては味方の損害は増えるばかり。これでは勝っても喜べない。
重要なのは、相手をとことん追い詰めることなく、ほどよいところで攻勢の手を緩める冷静さが必要であるということだ。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.09