期待されていないリーダーはチームを勢いづかせられない
孫子は前項の五つの基本原則を提示しているが、それが君主によって採用されなかったときにはあっさりと将軍職の拝命を拒絶し、その国から立ち去るようにと説いている。
孫子が提示したのは強い軍隊をつくり上げるだけでなく、国家の総合力を高めるための道すじであり、それが受け入れられなければ将軍職についたとて、なす術すべがない。
問題は非合理かつ理不尽なその国の現状にあるというのに、それを改めずに富国強兵が図れるはずはない。いくら有能な指揮官であっても、あれもダメこれもダメと制限を設けられては、腕の見せどころがない。
失敗が目に見えているのならば採用を辞退し、速すみやかに次の就職先を探すのが賢明というものである。
遊説家のなかには好待遇に目がくらみ、戦略が退けられても、喜んで仕官した者もいただろう。だが、前提条件が不採用という状況下でどうして成果を挙げるというのか。手も足も封じられた状態で戦場へ出向いたところで、天祐に恵まれない限り勝利して凱旋できるはずはない。
惨めな敗北を喫して捕虜になるか、下手をすれば戦死する恐れもある。たとえ生還しても敗戦将軍の汚名を着せられる。
そんな屈辱を回避するために孫子は前提となる戦略が不採用のときは、リーダーは任を下りるべきと説いたのだった。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.13