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スポーツ選手が「自己ベスト」を設定する時に大切な考えとは!?【廣戸聡一ブレインノート】

Text:廣戸聡一

自己ベストは最高ではなく「最善」を求める

●誰のためのパフォーマンスなのか?
「自己ベスト」を設定するとき、競技に取り組む選手は「何のために、誰のためにパフォーマンスをしているのか」を考えることが大切です。一般的に、数字を積み上げていくことだけが自己ベストだと思われがちですが、本来は「今一番やらなければいけないことをきっちりとやること」が自己ベストなのです。たとえば、ケガをして、リハビリをしながら復帰に備える選手にとっての今のベストは、「治すことに全力を傾けること」であって、トレーニングをしながら数字やタイムを気にしているようではダメなのです。「今できること」は人によって違いますし、その順列も日々入れ替わるものですから、しっかりと自分に向き合うことが大切です。

また、過去にとらわれすぎて、「今」が置き去りになってしまっている人も多いと思います。たとえばマラソン選手の場合、年齢を重ねて勝負が利かなくなっても「まだ前半20kmは勝負できる」ということであれば、1万メートルやトラックなど、距離の短い種目に転向すれば良いのです。今さら変えられないというのは、自らの可能性を摘むことになります。私は常々、「己を主張する者に天は味方しない」と考えているのですが、現役でいられる可能性が与えられているなら、種目にかかわらず勇気を持って走るべきです。重要なのは、競技のタイムではなく「自分の身体をどう見て、どう捉えているか」ということ。自己ベストは「最高」ではなく「最善」を求めるものなのです。

●自分に向き合うということ
これまで私が関わってきたアスリートの中で、「自己ベスト」を極めた選手として特に印象に残っているのが、ある男子やり投げ選手です。彼は若いうちに日本を代表する選手になりましたが、好事魔多し、ある年左足首を粉砕骨折。そこから再起できないまま晩年を迎え、試合に出場するための標準記録が取れずに引退勧告を受けた時の出会いでした。そこからの彼の努力は大変なものでした。あとのない彼はコツコツとコンディションを積み上げ、国体3位に入賞し、最終的に自己ベストを更新して引退したのです。

彼が悔いを残さなかったのは、出場をなかば諦めた国体に自力で出場を果たして、3位に入賞したからでしょうか?そうではありません。過去の自分を上回る記録で辞めることができたからです。「ライバルに勝った、負けた」ではないところに、彼の潔さがあります。一番良いときのイメージを持ったまま引退するのは後ろ髪を引かれるものです。しかし、「もう無理」というところからさらにギリギリまで頑張ったところで、過去の自分に勝てたこと、そして、最後の最後で奇跡が起きたときに、「これ以上の奇跡はないな」と感じられた現実性が、素直に良かったと思える自信に満ちた引退につながったのです。「常に自分に向き合うこと」がいかに重要かを教えてくれた、素晴らしい「自己ベスト」です。

●自分の変化を楽しむ
前項でも述べたように、コンディショニングとは、今、自分が何をすれば良いかを自覚した上で、それに必要な条件を自分に与えることです。その内容は人それぞれですから、「自宅に帰ってお風呂に入って寝る」というのが正解だということもあります。また、「家庭で子どもと一緒に遊ぶ」というのも、集中状態から解放されるためのコンディショニングのひとつと言えます。また、同じ人であっても置かれている状況が違えば、コンディショニングの内容は違ってきます。たとえばプロ野球の選手なら、入団したての時期、2軍で頑張る時期、1軍でデビューした時期、そしてベテランと呼ばれる域に入ってからなど、それぞれの時期によって当然内容は変わってきます。

若手の頃にひらめいた身体の使い方や感覚的なものも、年を経てベテランの域に入ると、「あれはちょっと違ったな、今思えばこうだな」と思い直すことが多くなります。このように人間は、「ひらめいたり思ったりしたことの変遷を考える」という作業を延々と続けているのです。そして、故障をしたときは、自分の調子が良かったときの感覚に戻ろうとします。しかし、良いときのイメージはたいていデフォルメしていることが多いもの。たとえば、子どもの頃、給食で出た中華スープと揚げパンの組み合わせは最高だった、と思っていたけれど、実際はそうでもなかった、というようなことです。そういった感覚のズレを指摘し、修正するのは私たちトレーナーの仕事ですが、選手自身にも「自己変化」、「自己矛盾」に気づく楽しさを知ってほしいと思います。

【書誌情報】
『廣戸聡一 ブレインノート 脳と骨格で解く人体理論大全』
著者:廣戸聡一

「本来の自分の身体の動きと理屈を知り、身体だけでなく精神的な部分との兼ね合いの中で、“いかにして昨日の自分を超えるか”という壮大なテーマを、人体理論の大家であり、日本スポーツ・武道界の救世主と呼ぶに相応しい、廣戸聡一が、自身の経験と頭脳のすべてを注ぎ込んで著す最強最高の身体理論バイブル。四半世紀でのべ500,000人の臨床施術により、多くのトップアスリート、チーム、指導者、ドクターとの関わりの中で行き着いたトレーニング&コンディショニング理論の集大成、ここに完成。オリンピック競技を含む全52種目を個別にも論及、紐解いた、すべてのアスリート、指導者、スポーツファン必携の書!

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