派手な勝利は不要。地味でも確実な勝利こそが大事
戦略家はまず不敗の態勢を築いてから敵の動向を絶えず監視し、一瞬の隙を見逃さず難なく勝利を収める。戦闘開始後に策を練るような軍は最初から負けたも同然である。
有能な指揮官は洞察力が常人の域を超えており、確実に勝利を収めるけれども、決して派手な戦いかたはしない。下準備を入念に施したうえで戦いに臨むものだから、勇猛な戦いを見せつける場面も必要なく、それでいてまったく危なげなく、勝利を手にするのである。
当の指揮官にしてみれば、戦争の駆け引きを知らない人びとから賞賛されるようでは、まだまだ半人前というのが正直な思いといえる。
後日、戦闘の詳細を聞く人びとからすれば、勇猛な武将の存在や奇策を駆使しての勝利劇ほど面白いものはない。だが、実際の戦闘では多くの血が流され、多くの若者が命を断たれる。
生きるか死ぬかの攻防を展開する以上、受けを期待しての戦いなどもってのほか。損害を最小限に留めながら勝利を収めるのが最善の道である。
ゆえに事前の工作が重要になるわけで、世間の評判を気にしてわざわざ見せ場をつくろうとする指揮官ほど愚かで危険な存在はない。
一般人にはどこに勝因があったかわからぬまま、確実に勝利をものにする者こそリーダーと呼ぶに値するのである。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.16