筑波大学の福田直也先生に聞く LEDは植物にとって太陽の代わりになる?
光を使ってレタスのポリフェノール含有量を高める!
私はもともと野菜が専門ですから、野菜を人工照明で栽培する、あるいは人工照明を何らかの形で関与させたときに、野菜が持っている特徴がどう変わるのかをずっと研究しているんです。
光というのは植物にとっては絶対に必要なもので、それはなぜかというと、光合成のためです。要するに光で自分の栄養分を作っているわけです。光がなかったら、当然成長もしない。ただ、光の与え方によっては、植物は、いわば人間のストレスのようなものを感じることがあるんですね。
植物は、そのストレスに対抗するために、たとえば自身の形を変えたり、中に含まれている成分を変えることによって、ストレスの影響を受けないようにする。
人間の健康機能に関与するポリフェノールやフラボノイドといった物質も、ストレスに応じて作られるので、どういう光の与え方をしたら、そういった物質がたくさん蓄積されるのか。植物の反応を調べるというのを、ライフワークとして長年やっているんです。
その中のひとつが最近研究しているレタス。レタスに特定の光を与えたときに、ポリフェノールがワッと増えるという現象があります。それは青い光によって起こる。青い光は一種の信号なんです。
強い光が自分に当たっているぞ、という信号。またさらに、24時間連続で光を与えるということを行う。これも植物にとってかなりストレスで、光は必要なものなんだけれども、やはり人間も食べ過ぎると、おかしくなりますよね。
それと同じで、食べ過ぎ状態になることで、中でヤバイ成分ができてしまう。それを無毒化するものを作らないといけないと判断して、ポリフェノールを作ったりする。
そうすると、一時的にポリフェノールの濃度を増やせるので、たとえば通常栽培しているレタスを、そういった環境に持ってきて、健康成分を増やすことで付加価値を高めて商品として出荷する。そういう技術体系ができないかと、最近は研究をしています。
そもそも光合成って?
光合成とは、要するに光を化学エネルギーに変換する過程です。それは太陽光でなくても、光であれば何でもよくて、結局光って、光量子という粒として飛んでくる。植物はそれをクロロフィル(葉緑体)で捉えて、化学エネルギーに変換しているんです。一種の太陽光発電みたいなものと考えてもいいと思います。
LEDライト登場以前の人工栽培
人工栽培で使われた一番古いライトには、メタルハライドランプというものがあります。また、高圧ナトリウムランプといって、今も高速道路などでよく使われている黄色がかった光がありますね。そういったものが人工栽培で使われていました。
なぜかというと、それらは光の出力がすごく強いんです。植物を栽培するには、光合成と呼吸のバランスがちょうど一致する光補償点というものがありますが、その光補償点以上に光の強さがないと、植物は成長して大きくなりません。
そのためには結構強い光が必要で、特に野菜などは光の要求量が高いものが多いので、ある程度大きなバルブ型のランプが必要ということで使われていたんです。
その時代にも蛍光灯はありましたが、まだ蛍光灯の出力がそこまで強くなかったので、蛍光灯だけでは、かなり植物に近づけないといけないため、難しい時代が続いたんです。そのうち、蛍光灯の出力が上がってきて、蛍光灯でもある程度、野菜の栽培ができることになりました。
蛍光灯の何がいいかというと、バルブ型のものに比べると、発熱量が少なく、中の空調が出す負荷も小さい。では、バルブ型のものが使われなくなったのかというと、そういうわけではなく、たとえば今でもヨーロッパでは、トマトやキュウリ、パプリカなど、いわゆる温室の中の補光栽培で使われています。
あとはバラ。とくに冬場や高緯度地帯ですね。オランダから以北はそういった照明を使う傾向があります。
バルブ型のライトは今もバラ栽培での補光目的で使用されている。
光はエネルギー源であると同時に情報でもある
基本的に光合成だけであれば、赤と青だけで十分なんです。ただ、光は植物にとって情報でもあります。それは信号として、捉えた光がどういったパターンかというのを認識した上で、種が発芽するかしないかを判定したり、花を咲かせるか咲かせないかの判定するときの情報として光を使っているんです。
光形態形成と言うんですけれども、そのシグナルの意味としては遠赤色が重要になります。以上の理由から植物にとって、赤、青、遠赤色光が重要な役割を持っていることがわかります。
ただ、それ以外にも、植物は紫外線も感知していることがわかっています。植物が持っている光受容体という、特殊な色素とタンパク質の複合体があるんですが、それが紫外線、青、赤、遠赤色の4種類に関しては、すでに見つかっています。
緑に関しては、まだはっきりしたことがわかっていませんが、緑も感知しているのではないかという説もあります。人工栽培に話を戻すと、蛍光灯がしばらく植物工場の主力になって普通の野菜を作る、あるいは苗を作る専用のボックスに蛍光灯が使われていました。
そのときLEDもすでにあったんですが、栽培用の光には使われていなかった。その理由として、当時のLEDは出力が弱かったことがあります。あまり大電流を流すことができないため、強い光が作れなかった。もうひとつの理由は、青色発光ダイオードが登場する以前は、青色を作れなかったことにあります。
それが青色発光ダイオードの発明と実用化によって、状況は変わります。青というのは、波長で言うと、だいたい450ナノメートル付近の光です。それを蛍光体に当てることで、今度は波長の長い光に変換することができます。要するに青をベースにして、緑や赤の光を含むスペクトルを作り出せるということ。
目的によって、どの色を強めるといったことをコントロールできるのがLEDの特徴であり、メリットでもあります。ちなみに、蛍光灯に欠けていたのは、発芽や花芽の分化などに影響する遠赤色光で、これもLEDなら作り出すことができます。
植物に必要な赤、青、遠赤外線
人間が色として視認できる波長の光を可視光線と言います。それよりも長い波長の光を赤外線、短いものが紫外線です。植物はこのうち、赤と青を光合成のエネルギーとして、遠赤外線を光形態形成のシグナルとして使用しています。
LEDは太陽の代わりになれる?
結論からいうと、太陽の代わりにLEDだけで地球上の植物を栽培することは可能です。さきほど言ったように、植物の成長に必要なスペクトルの要素をLEDはすべて満たせるので、まったく問題ありません。
また、LEDは特定の波長、偏ったスペクトルを照射することもできる。青や緑、あるいは植物がすごく反応する遠赤色も狙って出すことができるのもLEDの優れたところです。
さきほどのメタルハライドランプのような、もともとが白色で、太陽光のようなスペクトルを持った大型ランプはありました。ただ、取り回しが大変なうえに壊れやすく、とても家庭で使える代物ではありません。
また最近、産業用としては、半導体レーザーというものも出てきてはいますが、まだまだ高価です。LEDなら非常にコンパクトで、半導体素子なので衝撃にも強い。発光効率もどんどん良くなってきているので、一般的に普及している光源のなかでは、もっとも進歩していると言えるでしょう。
値段も安くなって、今や家庭用の照明も LED に代わりつつありますよね。そういうところで、植物に関する育成用のランプもいずれ完全にLEDに代わっていくでしょう。
それでも太陽は偉大
LEDをはじめ、人工照明による植物栽培は、年中安定していることがメリットのひとつですが、どうしても電気代を含めたコストの問題はどうしてもつきまといます。その点、太陽の光は無料。それでいて圧倒的な光エネルギーを供給してくれます。
【出典】『LED LIGHT 室内栽培基本BOOK』著:日本文芸社(編集)
【書誌情報】
『LED LIGHT 室内栽培基本BOOK』
著:日本文芸社(編集)
本書は、観葉植物の歴史から最新のLEDライトを使った室内栽培法まで、幅広く解説した一冊です。古代文明から続く観葉植物の文化は、現代においても多くの人々に愛され、特にLEDライトの普及により、室内でも多様な植物が栽培可能となりました。光の重要性や具体的な栽培方法を紹介し、実際にLEDライトを使って栽培を楽しむ人々の成功例やアドバイスを掲載。初心者から上級者まで参考になる内容が詰まっています。
公開日:2024.10.03