LEDライトで育てるHABITAT STYLE
長いあいだ、日照こそが植物のすべてで、植物は屋外かそれに相当する温室などで育てるものと考えてきました。とくに乾燥地に生きるサボテンや多肉植物は、浴びるほどの光を求めているのだから、どう考えても人工光線には向いていないと。一方で、5年ほど前からビカクシダを屋内に飾るようになり、窓から差しこむ外光に加えて電球型のLEDを補助光に加えてみたところ、案外うまく育つことにも気づきました。
そうしたなか衝撃的だったのが、塊茎植物の最稀品にして最難物であるモンソニア(Monsonia=Sarcocaulon)の各種を、播種から超速で育てている森敏郎さん(@mori_udn)との出会いでした。氏からLED栽培の詳細なノウハウをお聞きしたうえ、貴重な種子まで戴いて、2年前から私自身も本格的なLED栽培を始めたのです。森さんの栽培法はとても画期的なもので、太陽光を凌ぐ光量のLED環境下で、環境を適温に保ち常時給水するというもの。これがどんな奇蹟を起こしたのかは、森さんのホームページ(https://www.toshiromori.com/)に詳しく掲載されているので是非ご覧ください。
私もLED=補助光という固定観念をとっぱらって、人工の太陽で植物を育てる発想に切り替えてみました。私のLEDラックは、ほぼ自然光の入らない場所で、エアコンの直下です。使用機材は「Hipargero」というメーカーのフルスペクトルLEDランプ。弁当箱型で冷却ファンが内蔵されているもので、400W型と800W型の2基を使っています。後者は高さ60cmから90×90cmの範囲を照射する想定と説明されていますが、私のところでは高さ40cmから50×50cmにあてています。栽培範囲の中央付近で植物上端が受ける光量は、晴天屋外の光量を大きく超えています。この強いLED照射を至近から浴びせることで、“栽培棚にナミブ沙漠を再現”する、というのが肝です。加えてエアコンを常時稼働し温度を摂氏20-25度に通年保つことで、温度変化の乏しい海岸沙漠の環境条件にも近づけています。モンソニアについては、この森方式のLED栽培がかなり普及し多くの方が開花標本の育成に成功しており、採取された種子が市場に流通して不法採取の抑止にも繋がっています。ここでは、私がそれ以外の植物について試みた事例をいくつか紹介したいと思います。
すでに顕著な成果が出ているのが同じ環境で育てているアボニア・アルストニー(Avonia alstonii)です。まず、種子を蒔いて7年間温室で育ててきたものを、LED下に移してみました。すると出てくる茎節がとつぜん短くなり、花も塊茎にはりつくように咲きました。よくみるアルストニー栽培株の茎節(葉のように見えるもの)は、1~2cm以上に伸びてふさふさしています。しかし、自生地写真に見るそれは、ごく短くて別モノのように見えます。同じように強光LED下では、茎節は5ミリ以下にしか伸びず、刈り込んだ芝生のようです。またアルストニーは花梗が2cmくらい伸びて咲くので、それが普通と思っていましたが、強光LED下では花梗が確認できないくらい短くなります。これまで私たちがふさふさしていると感じたアルストニーの茎節は、実は徒長した姿に過ぎなかったことがわかります。また成長遅鈍で知られるアボニアも、この環境下ではモンソニア同様スピードアップして育ちます。次ページ右下の写真は実生半年でLED下に移して、10か月くらい経った赤花アルストニー( Avonia quinaria)ですが、すでに塊茎が1cm以上に育っています。本種についてはモンソニア同様に、強光LED下でこそ本来の姿=Habitat Style を獲得できる植物と言えそうです。
こちらは近縁のアナカンプセロス・コンプトニー(Anacampseros comptonii)。栽培遅鈍な難物と言われますが、何年も動きが悪かった実生苗をLED下に置いたとたんに爆速で成長し、青々とみずみずしい姿になりました。ところが、同じ棚の上でさらに光線の強い場所に置いたところ、とたんに生育が止まりました。このあたり、植物にあわせた適切な光量管理が不可欠なことがわかります。
メセン類についても、遮るものが乏しい環境に生きる種にはうまくいく感覚があります。写真は播種から4か月のムイリア宝輝玉(Muiria hortenseae) で、5月撮影のもの。ハウス環境のものは、外皮が黄色くなりはじめ休眠入りしていますが、LED棚はエアコンがきいていて、最高温度は25度止まりなので、まだ成長しています。同じく緑ぎっしりの稜曜玉(Dinteranthus vanzylii) の実生苗も青々としたまま。メセン類もモンソニア同様に休眠をパスして通年成長させられるかも知れません。
最後に、この強光LED栽培にも欠点はあって、それは電力消費が甚だしいことと、冷却ファンが大きなノイズを発生するために人間の生活環境とは相性がよくないことです。この方法で植物を大量生産したり、巨大なコレクションを維持しようとすると、こんどは環境負荷も気になってしまいます。なので、稀少かつ他の方法では本来の姿に育て難い植物を、小規模にじっくりと向き合いながら育てるのに適していると思います。
昨今の植物ブームでモンソニアをはじめ、大量の野生植物が輸入され、消費されていますが、これらの多くは自生地でも絶滅危機に瀕している植物です。過酷な自生環境に鍛えられた野生個体はほんとうに魅力的ですが、種子からの育成でその姿に近づけられれば、採取による自生地への圧迫は軽減できるはずです。LEDという人工の太陽の力で、ホンモノの太陽が輝く自生地へのリスペクトをこめて、ワイルドな植物を育てあげる。それは究極のHabitatStyleと言えるんじゃないかと思っています。
【出典】『LED LIGHT 室内栽培基本BOOK』著:日本文芸社(編集)
【書誌情報】
『LED LIGHT 室内栽培基本BOOK』
著:日本文芸社(編集)
本書は、観葉植物の歴史から最新のLEDライトを使った室内栽培法まで、幅広く解説した一冊です。古代文明から続く観葉植物の文化は、現代においても多くの人々に愛され、特にLEDライトの普及により、室内でも多様な植物が栽培可能となりました。光の重要性や具体的な栽培方法を紹介し、実際にLEDライトを使って栽培を楽しむ人々の成功例やアドバイスを掲載。初心者から上級者まで参考になる内容が詰まっています。
公開日:2024.10.23