「データドリブン」な企業経営はプロスポーツクラブでも例外ではない。スポーツのビジネス化を先駆けてきたJリーグは、百年構想を掲げて、地域密着で長きにわたり存続していくことが求められるが、その基盤になるのは「地域ファン」だ。スポーツ領域でリサーチ・コンサルティングを手がけるマーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクターの高橋隼人氏が、調査プロジェクトの結果をもとに「地域ファンの育成」を解説する。(文=高橋隼人)
福島ユナイテッドの魅力要素
前回は福島県における福島ユナイテッドのファン構造を明らかにし、ファネル分析を通してチームの「認知」から「関心」までに課題がある点を明らかにしました。今回は、クラブの魅力要素は何か?どのようなきっかけで観戦するようになったのか?などの問いに対する結果を分析することで、チームに対する興味関心を高め、ファン層の間口を広げるためのヒントを得ていきます。
さっそく、福島ユナイテッドの魅力要素を見ていきましょう。「あなたは、福島ユナイテッドFCのどのような点に魅力を感じますか」という質問をしています。
観戦頻度が増加または変化がない層では、「選手が全力でプレーしている」(51.6%)が最も高く、「地域に貢献している/地域のために色々と活動している」(48.4%)、「選手がファンを大切にしている」(38.7%)、「ホームスタジアムで販売している食料品や飲料品がおいしい」(32.3%)といった項目が続きます。
観戦頻度が減少又は中止した層は、「地域に貢献している/地域のために色々と活動している」(30.8%)が最も高く、「選手が全力でプレーしている」(28.2%)のスコアが続きました。
観戦は未経験であるものの観戦意向のある層は、「地域に貢献している/地域のために色々と活動している」(66%)のスコアが特に高く、「選手がファンを大切にしている」(18.9%のスコアも比較的高くなっています。
この結果を見ると、観戦に至る前に、地域貢献活動やホームタウン活動などの地道な活動が実を結び、ゲームを観戦したことがない人たちの興味喚起にもつながっていること、そしてスタジアムに足を運んでもらうことができれば、選手の全力のプレーや物販を含むスタジアム施策などにより「ファン度」を高めることができそうであることがわかります。
観戦することになったきっかけは?
様々なファンが、それぞれ違った「魅力」を感じているとしたら、スタジアムに足を運んでまで観戦する理由とは、一体何なのでしょうか?
まず、観戦経験のある層に対して、現在観戦をする目的・理由を尋ねたところ、観戦頻度が増加または変化がない層は「チームを応援するため」が25.9%と最も高く、以下、「臨場感を味わうため」(25.8%)、「会場の一体感を味わうため」(25.8%)と続きました。
ここで、観戦頻度が減少または中止した層に目を向けてみます。すると、「会場の一体感を味わうため」が5.1%。観戦頻度が増加または変化がない層と比較すると、大きなギャップ(20.7pt)が生じることに注目です。これにより、「会場の一体感の醸成」が観戦頻度の維持・向上に果たす役割があると考えられるでしょう。
もう少しこの「観戦頻度が減少または中止した層」を深堀りしてみます。調査では初回観戦のきっかけも聞いているので、現在観戦をする目的・理由とのギャップを見てみたところ、「子供や家族の要望」(-10.2pt)や「会場の一体感を味わうため」(-7.7pt)が大きく低下していました。
この結果から、観戦頻度が減少、又は中止した層は、もともとは子どもの要望で観戦に行っていたケースが多く、子どもの成長とともに一緒に観戦する機会が減少した、また、スタジアム現地の盛り上がりや一体感が欠けると自発的な興味・観戦意向がなかなか芽生えず、スタジアムから足が遠のいてしまっているのではないかと考えられます。
興味はあるが観戦していない理由
ファンの中には、もちろん観戦したことがない層も存在します。観戦経験者は全体の5.1%であり、残りの94.9%は観戦未経験、ないしはそもそもチームを知らない層だというのは前回の通りです。
では、なぜ観戦しないのか?また、どうしたら観戦意向が高まるか?これらを探るため、観戦は未経験だが観戦意向のあるという「ポテンシャル層」に、まず、観戦が未経験である理由を尋ねました。
その結果、「試合会場が遠い」(34%)、「スタジアムまでのアクセスが不便」(18.9%)といったアクセスの問題や、「開催している日程・時間帯が合わない」(26.4%)といったスケジュールの問題など、物理的な問題がハードルとなっているようです。
物理的な問題がハードルなのであれば、「県内遠隔地からのシャトルバスによる送迎」、「ホームゲームを県内別施設で開催」などの解決方法が考えられます。ただし、物理的な問題は解決方法がわかりやすい一方で、解決までには時間・費用など大きなハードルが残ります。
それでは、どのような魅力要素が伝われば、観戦意向が高まるのか?この層が福島ユナイテッドに期待することは、「チームが強い」、「有名な選手がいる」といったことであり、スコアが特に高くなっています。また、「試合当日にスタジアム周辺で魅力的なブースの出店やイベントを実施している」のスコアも高いのも特徴です。
具体的な施策についても同様に聞いています。「どのようなイベント・企画があれば観戦したい気持ちが高まりますか」という質問に対しての結果を見ると、「観戦チケットプレゼント」、「試合観戦後/ハーフタイムでのアーティストによるミニライブ」、「紹介キャンペーン」などへの期待度が高くなっています。
(※ 紹介キャンペーン=初めての観戦者を連れていくと半額になるなどのキャンペーン)
「観戦チケットプレゼント」や「紹介キャンペーン」など、観戦未経験者が足を運びやすくなるようなキャンペーンは、新規観戦者の間口拡大に一定の効果がありそうです。
調査から分かった「必要なアクション」
今回、調査結果からは、地域のファンが観戦に至るために、地域貢献活動やホームタウン活動などの地道な地域活動が効果的であることがわかりました。そして、観戦してもらうことができれば、「選手の全力のプレー」、「会場の一体感」、「スタジアム(とその周辺)での体験」などから、より魅力が高まることも確認できました。
認知→関心は歩留まり率が約20%だったことを覚えていますか?つまり、「知っている」人が5人いるとすると、「関心がある」のはそのうち1人ということです。この状況を打破するには、まずは地域での活動に触れてもらうというのが有効というのが、今回の大きな発見です。
連載最後となる次回は、この地域活動が焦点です。福島ユナイテッドの特徴的な活動の一つである「農業部」が、地域からどのように評価されているかをみていきます。
(※農業部:東日本大震災や原発事故の風評被害などに苦しむ福島県の農業を支援するために、福島ユナイテッドが2014年から展開する活動。クラブの選手、スタッフが地域の農家と協力して農作業や農作物の販売を行う)
記事:高橋 隼人
株式会社マーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクター。1976年生まれ。明治大学商学部卒業。JMRAカンファレンス委員。2002年株式会社マーケティングアンドアソシェイツ入社。2015年より現職。学生時代より同社にて街頭調査・会場調査など数々の現場を経験、生活者のリアルな声に触れたことをきっかけに本格的にリサーチャーとなる。入社後は20年にわたり、消費財を中心とした定量・定性調査の設計から分析まで一気通貫して対応。近年はプロスポーツビジネスの経営戦略をデータで支えるマーケティングサプライヤーとしての活動に注力している。スポーツが大好きな三児の父。
初出=「HALF TIMEマガジン」
スポーツビジネス専門メディア「HALF TIMEマガジン」では、スポーツのビジネス・社会活動に関する独自のインタビュー、国内外の最新ニュース、識者のコラムをお届けしています。
公開日:2021.04.26