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元オリックス板倉康弘/元ヤクルト小森孝憲が努力でこじ開けたプロへの道とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

努力でこじ開けたプロへの道

●板倉康弘 2001年度卒・オリックス(2002-2003)
●小森孝憲 2002年度卒・ヤクルト(2003-2005)

板倉は秩父の木こりの息子だった。これも私の恩師の同級生の方が秩父農工高校の監督をしていて「体とパワーならプロだぞ」と聞いたのがきっかけだ。高校時代に通算40本以上は本塁打を打っていて、打球をピンポン玉のように飛ばす。イップスで投げられなかったが、足も速かったので獲ることにした。スローイングさえちゃんとできればプロでも一流になったのではないかという選手だった。

板倉は、当時オリックスが取り入れていた「契約金ゼロ円選手」の1人だった。北海道の社会人チームからも話があったのだが、そのチームの監督人事の混乱もあった。そこで「契約金は無しでもプロに行きたい」ということになり、その社会人チームには私が土下座してプロに行かせてもらった。

勝負強さもピカイチ。スカウトから「ホームラン打ったら獲るよ」と言われていた試合で本塁打、ヒット、逆方向のレフトフェンス直撃の長打と大当たりした。オリックスに入団してからも首脳陣の石毛宏典さん、中尾孝義さんともに「これは鍛えたら凄くなりますよ」と話していた。ただ投げられないのはどうしても障壁になってしまった。イップスを治すのは私も得意で、考え方のスイッチさえ切り替えれば治るんだけど、投げ方が特有のものになってしまっていてどうしても治らなかった。

 

実は、彼の身体能力の高さと私の縁でラグビー選手に転向する話もあった。三洋電機(現埼玉パナソニックワイルドナイツ)のラグビー部の監督していた飯島均が俺の地元の後輩でよく遊んでいて、私のことを「兄すけ」と呼んでいた。野球を教えていたこともあった。飯島は当たれば飛ぶパワーはあったけど野球のセンスは無くてヤンチャだったから、「野球辞めてラグビーやれ。喧嘩と一緒だから」と私がラグビー転向を勧めたんだ。

 

お互い地元を離れてからは、全然会っていなかったのだが、網走がラグビー部のキャンプ地になっていたから、偶然そこで再会した。板倉は身長が190センチもあったから「プロに行けなかったら三洋でラグビーしろ」と言って、練習に参加させたこともあった。結構やれて、飯島も「獲る」と言ってくれたんだけど、板倉自身は帰ってきてから「体が持ちません。野球ならどこでもやりますんで」なんて音を上げてしまった(笑)。

今はファンだった女の子と結婚して、その子がタバコ専門の輸送会社の社長の娘だったから、その会社を手伝っているはずだ。とにかく真面目で「練習しろ!」と私が言うと、いつまでも練習していた。外にも遊びに行くようなタイプではなかった。プロで活躍はできなかったが、持って生まれたものに加えて、そうした姿勢があったからこそプロに入ることができたのだろう。

小森も本当に努力家。横浜商大高ではそんなに大した投手ではなかったんだけど、ウチでは毎日ネットスローなどたくさん練習していた。

 

腰のヘルニアから復活して、エースにはなれなくても、2戦目に高い勝率を誇っていた。たまたま同じ連盟で大学日本代表に選出されていたサイドスローの投手が複雑骨折してしまい、大学日本代表のスタッフだった当時駒澤大監督の太田誠さんから電話がかかってきた。

「お前のところに同じようなサイドスローいるんだろ? サイドスローの枠が空いたから呼んでくれ」こうして運よく、小森が代替に招集されることになった。また、当時はプロアマの垣根を超える新しい試みとして、アマチュアの日本代表選手がプロ球団のキャンプに何人かずつ派遣されていた。小森の派遣先は、のちに入団するヤクルトだった。

その時の一生懸命な姿勢が気に入られてプロに行くことになった。彼もまた、板倉と同じように、ひたむきなところが買われてプロに進むことができたのだと思う。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。