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元ソフトバンク/楽天の小斉祐輔が歩んだPL学園同期の今江敏晃とは違ったプロへの道とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

PLから来た逸材

小斉祐輔 2005年度卒・ソフトバンク(2006-2011)楽天(2012-2015)

 彼はPL学園で今江敏晃(現楽天コーチ)らと同期だったが、部内の不祥事で最後の夏は出場停止。甲子園への道を閉ざされた。この時、今江、小斉、朝井秀樹(元近鉄、巨人)、桜井広大(元阪神)、堂本裕平、藤井良治とレギュラー級6人について、PL学園の井元先生から「出場停止になり、行くところが無いんだ。樋越くんどうする?」と尋ねられた。当然、私は「全員ください」と伝えた。

うちの練習参加に来た時なんて、うちの投手より良い球投げるわ、簡単にパカーンと打ち返すわで「これは、凄いな」と驚いたからだ。すると井元先生は「分かった。全員送る」と仰ってくれた。「これはついに我々も日本一だ!」と心の中で拳を握った。

そんな期待も束の間、また一人また、一人と彼らのプロ入りが決まっていった(笑)。今江は最後までなかなか進路が決まらず「オホーツクに行きます」という返事をしていた時もあった。だが、最終的にはロッテが「獲ります」となってしまった。

 

でも練習に参加した時の今江の目は忘れられない。野球に対して、それはもう本当にギラギラしていた。そんな中で小斉だけはウチに来てくれた。早くから三垣の後継者となる左の強打者として期待していた。小斉は「高卒でプロに行きたい」とギラギラしていたが、足が遅かった。だから周りも「樋越監督に鍛えてもらってからでいいのではないか」と勧めてくれたし、私も本人と話して一生懸命に口説いた。

 

彼は1年生の頃から4番。上級生になると主将も任せた。そのシーズンは開幕3連敗を喫して「もう神宮に行けないです」と泣いていた。でもその時に「これから7連勝すればプレーオフもあり得るだろ! お前は毎日ホームランを打て」と言ったら、本当に彼は新記録を作るほどの本塁打を打ち、プレーオフを経て逆転優勝まで掴んだ。「だから言っただろ!」と褒めた。

さらに全日本大学野球選手権では、その年から会場として使用されることになった東京ドームで、ドーム第1号本塁打も打った。そのホームランボールを私にくれるような粋なところがあった。ただ彼も干されたことはあった。寮から学校までの「7キロロード」をある日、私があえて時間を遅くして向かうと、タラタラと歩いている小斉の姿を見つけた。

「それがキャプテンを任された人間のすることか!」私は厳しく叱責した。彼の中にも驕りがあったのだろう。3ヶ月間、グラウンドには入れなかった。ただ私としては、彼はもともと守備があまり上手ではないので、「打たせてさえいれば大丈夫」と考えていた。「ウチを辞めることになっても、どこかで野球はやるんだろう」と言って、打撃練習だけは室内で許可していた。

 

彼は毎日、マシンを相手に何千球と打ったと思う。マウンドの前に砂止めの木があるのだが、何度も小斉が当てるものだから割れてしまった。何度も何度もセンター返しを意識していたのだろう。また打球を同じところに打ち返すうちにネットを破り、しまいにはネットの奥にある壁にまで穴を開けてしまった。その穴は、彼のように一生懸命練習する選手がいたことを知らせるためにも、「小斉の穴」としてしばらく直さなかった。

この頃の小斉は悔しさのあまり毎日打っていた。良い打者は何度も同じ打球が打てるのだろう。技術はもちろん、それを続ける精神面も凄かった。一方で「足が遅い」という課題は残ったままだった。卒業時には北海道で力をつけてきていた社会人チームに進むことも考えた。私と副社長が知り合いという縁もあったからだ。

しかし、そのチームが突然の休部。困ったのだが「育成でもいいから獲ってもらえないか?」とホークスに育成ドラフトで拾ってもらった。やはり打撃は良かったので、すぐに育成選手から支配下選手に昇格し、一軍で3番を打たせてもらったこともあった。3年目には初本塁打も打ったし、4年目には二軍とはいえ3つの個人タイトルを獲った。ただチームが機動力重視へと舵を切るようになっていた頃で、守備と走塁に欠点のある彼の出場機会は限られてしまった。もっとやれると思ったのだが、かわいそうだったな。その後移籍した楽天でもチーム方針と上手く噛み合わず引退することになった。

歴代のOBの中で打撃は、ブランドン大河(西武)の比ではないくらい良かった。教えてできることではない「打球の角度」を持っていた。 もっと活躍して欲しかったが、今は福岡で牛タン屋を営んでいる。一生懸命に修行をした末に開業。相当な努力をしているようだ。コロナが収まったら店に行ってやりたい。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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