開幕前の3月22日に育成から支配下登録されたプロ2年目の左腕・佐藤奨真投手。平均球速130キロ台とプロの投手としては「遅い」部類に入るが、緩急と投球術を駆使して支配下入りをつかみ取った。プロ初登板も記録し、ここから一軍での実績を積み上げるであろう期待の左腕に、「支配下入りの喜び」と「自らの投球スタイル」について聞いた。
プロ初登板よりオープン戦の方が緊張しました(笑)
――プロ2年目の今季、開幕前に支配下登録入りを果たしました。プロ生活はここまで「順調」と言っていいですか?
佐藤 1年目の夏までに支配下登録されることがプロ入り時の目標だったので、自分の中では「少し遅れてしまったな」という印象です。
――昨季はその夏場以降に調子を上げました。目標を達成できなかったこともバネになったのでしょうか。
佐藤 前半戦は打たれることも多かったので、映像や相手バッターをしっかり見ながら「プロのバッターを抑えるにはどうすればいいのか」を考えながら投げていました。そこが上手くかみ合って、抑えることができたんだと思います。
――メンタルや技術の部分で具体的に変えた部分はありますか?
佐藤 メンタルで言うと打たれてもしっかりと「切り替える」ことが大事だなと。1点取られても2点目を与えない。打たれた試合でも次に引きずらない。そこは意識しましたね。
――昨季後半戦の好調を今季のキャンプ、オープン戦までキープして見事支配下入りをつかみ取りましたが、「手ごたえ」はありましたか?
佐藤 オープン戦も調子が良かったので、このまま抑えることができれば「いけるんじゃないか」という思いはありました。
――3月31日のソフトバンク戦ではリリーフとしてプロ初登板も記録しました。
佐藤 実は公式戦の初登板は思ったほど緊張しなかったんです(笑)。それよりもオープン戦の方が緊張感はありましたね。「打たれたら上がれない」という思いがあったので、つねに追い込まれた状態というか、自分でもかなりプレッシャーを感じていたと思います。
――プレッシャーがある中でもしっかりと結果を残せた要因は?
佐藤 昨季からチェンジアップと真っすぐが課題だと思っていて、その精度をしっかり上げられたことが結果につながったのかなと。真っすぐはスピードではなく「ベース上での強さ」というか。プロのバッターが相手だとコースを間違えるだけで長打になってしまっていたので、多少ボールが抜けてもファウルにできるボール……っていうんですかね。そういう「強さ」を求めています。
――チェンジアップについては?
佐藤 自分は「決め球」がないことがずっと課題でした。追い込むまではいけても、そこから空振りを奪ったり打ち取れるボールがない。真っすぐとの緩急が生まれるチェンジアップの精度が高まったことで、その課題をクリアすることができました。
――チェンジアップを投げるうえで一番意識していることは?
佐藤 腕の振りですね。真っすぐと同じ振りで、球速差や変化を出す。そういうイメージで投げています。
真っすぐは「速く」できないけど
ほかのボールを「遅く」することはできる
――真っすぐは「スピードではない」という話でしたが、こだわりはない?
佐藤 もちろん、「出る」にこしたことはないです。ただ、自分の場合は大学に入ってからすぐに、「もうスピードは伸びないかな」と(笑)。だったら、ほかの部分を伸ばしていければと意識を変えました。それまでは「150キロ」を目指していたんですけど、僕の場合はスピードを追い求めて良いことがあまりなかった。ケガをしたこともありましたし、むしろそのこだわりを捨ててからの方がピッチャーとして伸びたので、今はスピードじゃないところで勝負したいと思っています。
――チームメイトにも160キロを超える投手がいて、日米問わず「球速の高速化」はトレンドでもあります。そんな中であえて「スピードではない部分」で勝負できるのは、佐藤投手にとって「長所」になっていますか?
佐藤 最初は長所とは考えられなかったです。ただ、真っすぐを「速く」することはできなくても、ほかの球種を「遅く」することはいくらでもできる。そうすることで真っすぐをより速く見せたり、緩急を作れると気づいてからは、そこを意識して投げるようになりました。
――先ほど「真っすぐのベース上での強さ」という言葉も出ましたが、そのあたりも「数字以上に速く見える」ことにつながる。
佐藤 実際の数字とのギャップは一番意識しています。「この数値が良ければ強いボール」という明確な基準はないんですけど、バッターの反応を見ると球速が同じでも速く見えるボールと遅く見えるボールがあるのは間違いないですから。
――投球フォームなど、意識していることもあれば教えてください。
佐藤 体重移動や間の取り方など、試行錯誤は続けています。その中でも一番理想に近いのはソフトバンクの和田毅さんです。そこまで力感はないのに、真っすぐがビュンと来る。そのうえで球速よりもバッターが速く感じているイメージがあります。
――そういう試行錯誤が、着実に成果につながっている。
佐藤 はい、自分の中でももちろん手ごたえはあります。同時に課題も多いので、まだまだ成長しなければとは思っています。
――ありがとうございます!最後に、ファンの方へ今季の意気込みとメッセージをお願いします。
佐藤 今の目標は、一軍での初勝利です。先発でもリリーフでも「行け」と言われたら行くつもりですし、ファンの方には「遅いボールでも抑える」僕の投球を見てほしいです。
――ありがとうございます!
インタビュー後、佐藤投手は5月14日のオリックス戦でプロ初先発。山本由伸投手と投げ合い、6回1失点と堂々たる結果を残した。惜しくも目標とする「初勝利」はお預けとなったが「遅くても抑える」投球スタイルで、近いうちに間違いなく目標を達成してくれるはずだ。
取材:2022年5月11日
インタビュー及び記事執筆:花田雪
協力:千葉ロッテマリーンズ
公開日:2022.05.21