19年ドラフト。4球団の競合指名の末、ロッテが交渉権を獲得した佐々木朗希(大船渡)。
岩手の沿岸部に生まれ育った怪物は、どんな景色を見てきたのか。かつては花巻東の菊池雄星、大谷翔平と岩手の怪物を追い、19年は佐々木朗希を追いかけたライターがその足跡を辿った。
■佐々木朗希“怪物の見る景色”② 岩手に逸材が出現する理由
なぜ、岩手にばかり怪物が現れるのでしょ
うか――?
この1年間、何度そう問われたかわからな
い。2009年に菊池雄星(マリナーズ)、2
012年に大谷翔平(エンゼルス)がドラフ
ト会議の目玉となり、そして19年は佐々木朗
希である。
10年で3人もの超大物が出現すれば、偶然ではない秘密が隠れているのではな
いかと疑う心情も理解できる。
私もすがるような思いで、岩手の野球関係
者に聞いて回ってみたこともある。「自然に
囲まれたくましく育つから」「食べ物がおい
しいから」などの要因を語ってくれた人もい
たが、だいたいは苦笑して困り果てるのがお決まりのパターンだった。
今のところ「たまたま」としか言いようがない。
また、一口に「岩手」と言っても、その面
積は本州で一番広いことも忘れてはならな
い。菊池は盛岡、大谷は水沢(奥州市)と内
陸部出身で、佐々木は沿岸部の出身。陸前高
田で生まれ育ち、2011年の東日本大震災
を機に大船渡へと移住している。
そしてドラフト会議を直前に控えて、私は
あることに気づいた。佐々木が幼少期から過
ごす大船渡に、ほとんど行ったことがないと
いうことだ。
菊池や大谷の花巻東在学中には
何度も花巻に足を運び、彼らが過ごした日常
的な風景を見てきた。大船渡に行ったからと
いって、佐々木の何かがわかるわけではない。
それでも、佐々木が数々の強豪校からの誘い
を断り、「地元の仲間と甲子園を目指すこと
に意味がある」とこだわった大船渡の町を自
分の目で見てみたかった。
19年10月2日、大船渡市の市民文化会館・リア
スホールで佐々木の進路表明記者会見が開か
れることになり、私は東京から大船渡へ向か
った。電車を乗り継ぎ、気仙沼からはバスで
終点の盛駅を目指す。東日本大震災の被害を
受けた影響で大船渡線の気仙沼?盛間は復旧
を事実上断念し、バス輸送システム(BRT)
の運行になっている。
道中、佐々木が幼少期を過ごした陸前高田
を通りかかった。近代的な道の駅が建つその
隣には、津波に襲われ廃墟と化した旧道の駅
が無残に晒されている。新しい家屋が建ち並
ぶエリアは、津波の被害を受けたことを意味
していた。
沿岸部にはクレーン車やショベル
カーなどの工事車両が当たり前のように行き
交い、震災の爪痕はそこかしこに残る。「奇
跡の一本松」は信じられないほど華奢で、ど
うやって津波の猛威から逃れたのか、想像す
ら湧かなかった。
私はそんな光景が広がる車窓を眺めながら、
佐々木に何を質問するか考えていた。ドラフ
ト会議当日を会議場で迎えることが決まって
いる私にとって、高校在学中の佐々木に質問
する最後のチャンスになる。
各メディアからの取材が殺到するため、学
校側は単独インタビューを受け付けていない。
佐々木への取材は、いつも公式戦後の囲み取
材に限られた。
膝を突き合わせて聞きたいこ
とは山ほどあったが、共同会見となると質問
は絞るしかない。今回、私が質問できるのは
1問が限度なのは目に見えていた。
なぜここまでの投手になれたと思うか。プ
ロで戦う上でもっとも不安な部分はどこか。
大船渡を離れたいと思ったことはないのか。
登板せずに終わった夏の決勝を今ならどう振
り返るか。プロ志望届を提出する前にあった
選択肢は何か……。
どれも聞きたいし、どれも最後の質問とし
ては底が浅いような気もした。佐々木に感じ
る根源的な謎は何か。私は佐々木を初めて生
で見た今年の4月6日を思い出していた。
次回、佐々木朗希“怪物の見る景色”③「佐々木朗希が怪物になった日」へ続く
(初出:【野球太郎No.033 2019ドラフト総決算&2020大展望号 (2019年11月27日発売)】)
執筆:菊地高弘
1982年生まれ。『野球太郎』編集部員を経て、フリーライターに。選手視点からの取材を得意とする。近著に『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)がある。
アマ野球関連のラジオ出演なども多数。
【書誌情報】
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公開日:2020.02.12
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