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東京大会の意義。国民が受益者に【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

16年五輪にも立候補していた東京

 2016年夏季五輪開催地を決めるIOC総会は、その7年前の09年10月2日(現地時間)、デンマークのコペンハーゲンで開かれた。

 シカゴ(米国)、東京(日本)、リオデジャネイロ(ブラジル)、マドリード(スペイン)の順でプレゼンテーションが行なわれ、1回目の投票で本命視されていたシカゴが落選した。

「これで有利になった」

 招致関係者が喜んだのも束の間、2回目の決選投票で東京は最下位に沈んだ。

 勝ったのは「南米初」を謳ったリオデジャネイロ。

 この時、東京が提案した「環境五輪」は、五輪の持続可能性という視点から見ても画期的かつ先駆的なものであり、太陽光パネルなどを使った環境対策は、地球の温暖化を憂う団体などから一定の評価を得ていた。

 ところが、である。IOC評価委員の反応は、「我々は国連ではない」と冷ややかだったという。

 舞台裏を明かしたのは当時の東京都知事・石原慎太郎だ。

<ぼくが環境の話をしたら、『ここは国連じゃないんだ』という人がずいぶんいたよ>朝日新聞2009年11月12日付)

 2011年3月11日、東北を中心とする大地震が発生する。未曾有の被害をもたらした東日本大震災だ。

 2年後の13年9月7日(現地時間)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)でのIOC総会で、東京はリベンジを果たす。最終選考でイスタンブール(トルコ)、マドリードに勝利し、2020年大会の開催都市に選ばれた。

 復興した姿を、全世界に発信したい――。

 招致委が大義名分として新たに掲げた「復興五輪」がIOC委員を動かしたのである。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で東京大会の1年延期が決まると、安倍晋三前首相は開催の目的を「人類が新型コロナに打ち勝った証」に変更した。菅義偉首相もボイスレコーダーのように同じ言葉を繰り返した。

 残念ながら緊急事態宣言下での開催となった以上、「打ち勝った証」という言葉は、もう使えない。

 さらには7月下旬と8月下旬、2度のピークが予想される猛暑が追い打ちをかける。コロナと熱中症の“二正面作戦”に勝利するのは容易ではない。

 それでも、敢えて開催に踏み切った以上、その意義をIOCは、東京都は、そして日本政府は国民に丁寧に説明すべきだろう。多額の税金を投じた国家事業である以上、大会の最大の受益者は国民でなければならない。

初出=週刊漫画ゴラク2021年7月30日発売号