氣は出すだけでなく、「ヘソで決め」、止めることで破壊力を増す
臍下丹田に氣を鎮め、氣を出す意識を持てるようになったら、次の段階は氣を止める、です。少しばかりですが氣の鎮め方のコツ、出し方のコツがわかりかけた頃、次に荒川先生がよくいわれたのが、氣の止め方についてでした。
荒川先生は王さんらの指導に、藁の束や天井から吊るした新聞紙を日本刀で斬らせる練習法を取り入れていました。新聞や雑誌、テレビなどで、ご覧になった方も多いことでしょう。選手にプロとして結果を残させるために、そこまでやる指導にはただただ頭が下がります。
それはともかく、素人にはなかなか斬れるものではありませんが、氣を臍下丹田に鎮め、その出し方を覚えるようになると斬れることもあるそうです。ところが斬れたとしても、氣の止め方を知らないと、真剣の重さで自分の足を斬ってしまう人もいるのだとか。氣をいつまでも出したままだと、日本刀の動きも止まりませんから、勢いで足を斬ってしまうのです。先生の言葉を借りれば、 「氣はだらしくなくだらだらと出すものではない」ということになります。
最初に出会ったとき先生は、名刺で割り箸を斬ってみせてくれました。そのとき、先生の動きを注意深く見ていると、右手に持った名刺を一気に振り下ろすのですが、割り箸に名刺がぶつかって折れた瞬間、その手の動きが止まることに気がつきました。力任せに手を振り下ろしているのではないのです。つまり臍下丹田に鎮めた氣を一気に出すと同時に、氣が箸に伝わった瞬間に氣を止めているわけです。それが氣のエネルギーを何倍、何十倍にすることにつながることは、後に教えていただきました。
この氣を止めるという動きは、ゴルフスウィングではフィニッシュです。そしてフィニッシュは「ヘソで決めろ」とも教わりました。フィニッシュでバランスを崩すアマチュアが多いのは、氣を出せていないか、もしくは出せたとしても止められず、だらしなく出し続けているからなのです。
【書誌情報】
『ゴルフのトップコーチが教えるスウィングの真髄』
著者:辻村明志
上田桃子、小祝さくらプロをはじめ、女子のトッププロたちをコーチしている本書の著者・辻村明志氏。王貞治選手の一本足打法を作り上げた故・荒川博氏に師事し、ゴルフ指導に取り入れたことは有名だ。本書は、荒川氏から受け継ぎ、コーチングに活用している「氣のスウィング理論」を解説するもの。「氣は心を動かし、心が氣を動かす」という、同氏の考えに基づき、氣の力をゴルフスウィングに活かすことを目的に、その方法をイラストと写真を使いわかりやすく紹介する。
公開日:2020.06.07