複合的な要因からなる痛みも
少し専門的な話になりますが、腰の「痛み」が発現する病態について説明しましょう。痛みのメカニズムは非常に複雑ですが、大きく3種類に分けることができます。まず1つめが、「侵害受容性疼痛」です。切り傷や打撲、骨折といった体の組織が損傷して起きるもので、ぎっくり腰をはじめとする急性腰痛症の多くがこれにあたります。
ケガなどによって壊れた細胞でつくられるプロスタグランジンという熱や腫れ、痛みを引き起こす物質が、神経を刺激することで痛みを生じさせます。2つめは神経が圧迫されるなどして、神経そのものが傷ついて起きる「神経障害性疼痛」です。過敏になった神経が過剰に痛みのシグナルを出す状態で、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどが該当します。
3つめの「心因性疼痛」は、ストレスやうつ症状など、精神の不調が痛みを発症させたり、増大させたりするタイプです。検査で異常がないのに痛みが消えない、治った後も痛みだけが続くといった慢性の腰痛は心因性の要因が強いです。
さらに、今まで紹介した3つの要因が複合的に絡み合って痛みを生じさせる場合もあり、これを「混合性疼痛」と呼びます。このようなタイプもよく見られるもので、原因の究明から治療法まで、多角的に考えることが必要となります。
心因性疼痛が痛みを増大させている!?
心因性疼痛によって、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛をより強く感じることも。腰に限らず、体の各部位に影響を及ぼすことがあります。
心因性疼痛で痛みが強くなる理由
ストレスやうつ症状などから、痛みを抑える神経伝建物質のドーパミンやセロトニンの効果が低下。 そのために実際よりも痛みを強く感じることがあります。
出典:『専門医がしっかり教える 図解 腰痛の話』著/吉原潔
【書誌情報】
『専門医がしっかり教える 図解 腰痛の話』
著:吉原潔
今や4人に1人が悩んでいるとも言われる国民病である『腰痛』。ぶつけた、痛めた、ぎっくり腰といった原因がハッキリしている腰痛だけでなく、『脊柱管狭窄症』『椎間板ヘルニア』『ぎっくり腰』などによる痛みや、病院で検査しても特に異常が無いと言われるものまで、痛みの原因は多種多様にあります。しかし、そんな痛みに対して痛み止めや筋弛緩剤などの薬で対処療法だけをしていても根本の治癒にはなかなか繋がらないため、しっかりと『腰痛の原因』と向き合うことが大切です。本書ではそんな腰痛を治して、長い人生を痛み無く健康に過ごすために、『脊柱脊髄外科専門医』と『フィットネストレーナー』という2つの肩書を持つ腰痛の名医による、腰痛が治らない意外な原因と、骨と筋肉にアプローチする自宅でできる腰痛のセルフケア法を紹介します。
公開日:2023.07.06