部下を助け合わせればチーム力が一気に高まる
呉と越の人間は犬猿の仲であるが、同じ舟に乗せて大河を渡らせれば、まるで謀ったかのように協力し合う。役割分担をして助け合わなければ全員の命が危ういからで、誰の指図がなくとも事はスムーズに運ぶ。今でも使われる「呉越同舟」という慣用句の出典は『孫子』のこの部分である。
軍隊の操縦方法もこれと同じで、軍全体の心を一つにできるかどうかは、指揮官の手腕にかかっているのである。
怪力の持ち主はもちろん、脆弱な者をも勇者と思い込ませ、遜色のない奮戦をさせる。そのためには助け合わなければ共倒れを免れないことを自覚させる必要がある。
命がかかっているとなれば、ふだん不仲な者同士でも阿吽の呼吸で行動することができるからである。人の気持ちというのは伝染する。よいほうに伝染させるか、悪いほうにさせるかは上に立つ人間の手腕や個性にかかっており、有能なリーダーであれば、その人なりの方法でいともたやすくやってのけるであろう。
重大な危機は人びとから思考力はもちろん、気力や体力をも奪うが、そんななかでも助かる望みがあるとなれば、人びとは一二〇パーセントはおろか、二〇〇パーセントもの力を発揮できる。
その道理をわきまえていれば、ピンチをチャンスに変えることができるのである。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 孫子の兵法』
著者:島崎晋
新紀元前500年頃、孫武が勝負は運ではなく人為によるとし、その勝利の法則を理論化した兵法書。情報分析や見極め、行動の時機やリーダー論等、現代に通じるものとして今も人気が高い。「名言」を図解でわかりやすく紹介する。
公開日:2021.08.21