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「捕手をしていて初めて恐怖を覚えた」佐々木朗希が怪物になった日とは?

Text:菊地高弘

19年ドラフト。4球団の競合指名の末、ロッテが交渉権を獲得した佐々木朗希(大船渡)。
岩手の沿岸部に生まれ育った怪物は、どんな景色を見てきたのか。かつては花巻東の菊池雄星、大谷翔平と岩手の怪物を追い、19年は佐々木朗希を追いかけたライターがその足跡を辿った。

佐々木朗希〝怪物が見る景色″①

■佐々木朗希が怪物になった日

「すごく緊張して、変に力が入ってあまり(ボールが)指にかかりませんでした。2ストラ イクに追い込んでから力んでしまったので、精度を上げていきたいです」
バックネット裏のスカウトのスピードガンで163キロを計測した登板後、佐々木はそう振り返った。
19年4月。初の試みだった侍ジャパンU-18候補の研修合宿での紅白戦。佐々木は森敬斗(桐蔭学園⇒DeNA))や紅林弘太郎(駿河総合⇒オリックス)ら日本を代表する高校生を相手に、6者連続三振の衝撃的な投球を披露した。

奥川恭伸(星稜⇒ヤクルト)も石川昂弥(東邦⇒中日)も西純矢(創志学園⇒阪神)も、その日最大の驚きとして佐々木のボールを挙げた。
示し合わせたように「今まで見たことがない」と口を揃えた。 あるスカウトが「一人の野球人としていいものを見せてもらった」と神妙に語っていたのも印象的だった。たしかに、それほど見る者にショックを与えるボールを佐々木は投げていた。

バッテリーを組んだ藤田健斗(中京学院大中京⇒阪神)は「捕手をしていて初めて恐怖を覚えた」という。ストレートはかろうじて捕球できたが、高速で鋭く曲がるスライダーやフォークは何度も後ろに逸らした。
私は三塁側フェンス前で佐々木の投球を見ていたが、「捕手の藤田が死んでしまう」という恐怖と、自分の遠近感が狂う錯覚を覚えた。
佐々木のマウンドでの存在感が大きすぎるあまり、投本間の距離が短く感じられたのだ。この日に見た、佐々木の暴力的なまでの剛球は一生忘れないだろう。

「必要のないことは省こう」

ところが、5月に春の沿岸南地区予選を見にいくと、佐々木は140キロにも満たないストレートとスローカーブを中心に打たせて取る投球をしていた。
別人のような姿に「ケガでもしたのか?」と心配になったが、試合後の國保陽平監督の説明に納得した。
「4月中旬に骨密度を測定していただいたりして、まだまだ大人の骨ではないと。球速に関する期待はあるんですけど、球速に耐えられる体ではない。骨、筋肉、靭帯、関節がまだそういうものじゃなかったんです」

それ以来、佐々木は要所以外では7~8割程度の力加減で、強度をセーブするようになった。今夏の岩手大会では盛岡四戦で最速160キロを計測したものの、4月に見たときほどのボールの迫力は感じなかった。
だが、そんな佐々木に落胆したわけではない。むしろ大船渡の試合を見て、佐々木が高校で大きく成長した要因が見えた気がした。印象的だったのは、大船渡の選手は監督の指示を待ったり顔色をうかがうのではなく、自分の意思で戦っていたことだ。

試合前のストレッチは、選手個々が自分の体と向き合うように体をほぐす。佐々木なら股関節周りや肩甲骨周りを重点的に動かしていた。
あるOBによると、國保監督が就任してから「必要のないことは省こう」という方針になったという。
前号の『野球太郎』でも書いたように、佐々木は「メリットを感じないから」と遠投をしない。以前、國保監督はこんなことを語っていた。

「メカニックな部分は触りません。誰かに指導いただくことがあっても、自分の感覚の上でプレーしないと、頭と体のズレが生じる危険があります。選手には『自分の感覚を大切にしなさい』と伝えています」

もちろん、佐々木の人並外れた才能があってこそ、ここまでの怪物になったのは間違いないだろう。だが、常識を疑い、自分の体と感覚の特性に向き合っていたことも、佐々木を大きく成長させた要因の一つだ。
岩手大会の決勝戦で佐々木を起用しなかったことばかりが批判される國保監督だが、佐々木を導いた功績はもっと評価されるべきではないか。
その指導スタイルは、新時代のひとつのモデ ルになっていくはずだ。

そして、当然のことながら佐々木の完成形は今ではない。このまま成長し、スピードに耐えられる体を作り上げたとき、どんなボールを投げるのか。それは楽しみという次元を超えて、見知らぬ土地に取り残されるような心細さすら覚える。
人間が行き着ける範疇を突き抜け、誰も知らない世界に連れて行かれてしまうのではないか……。
佐々木を見ていると、そんな不安さえ湧いてくる。そこまで考えたとき、佐々木への最後の質問がおぼろげながら見えてきた。

次回「佐々木朗希“怪物の見る景色”④そのとき、佐々木は沈黙した」へ続く

(初出:【野球太郎No.033 2019ドラフト総決算&2020大展望号 (2019年11月27日発売)】)

執筆:菊地高弘
1982年生まれ。『野球太郎』編集部員を経て、フリーライターに。選手視点からの取材を得意とする。近著に『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)がある。 アマ野球関連のラジオ出演なども多数。

【書誌情報】
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