アジアで唯一の絶対主義国
日本の近代史は明治維新ではなく、織豊政権時代から始まったと言えば、多くの日本人は驚くだろう。しかし、世界史的観点から見れば、織豊政権は西ヨーロッパの絶対王(国王)と同じであり、重商主義を基本政策とする絶対主義国家であったと言ってよいのである。
トップバッターの織田信長は、少年時代から「うつけ者」と呼ばれた暴れ者だったが、尾張有数の内陸港、伊勢湾交易の要衝として栄えた商人都市津島を遊び場として育ったため、生まれながらの商人大名、絶対王となった。
長ずるに及んで本領を発揮し、「楽市楽座」に始まる重商主義政策は、泉州堺や筑前博多などの自由都市を重視し、商品生産と流通を促進することになった。天下統一を図ることは封建的割拠に終止符を打ち、統一政権を樹立するだけでなく、全国市場の形成を図ることだった。本能寺の変に倒れたとき、信長の支配領国は近畿・東海・北陸・中部・中国各方面に二十五カ国、およそ一千五百万石相当はあった。戦上手の武田信玄や上杉謙信が生涯の間、せいぜい四、五カ国だったのに比べるならば圧倒的である。そこで驚くのは、それらの領国支配が現代の軍事組織=「方面軍体制」に編成されていたということ!
柴田勝家、羽柴秀吉、明智光秀、徳川家康らの武将に領国を与えるのではなく、信長の領国を納める代官に指名されるというだけであった。羽柴秀吉は信長の後継者としてのし上がってくるが、その政策にはさしたる目新しさはない。信長亜流に留まっており、信長以後の政治的安定、収拾を図ったに過ぎない。信長、秀吉共、封建大名の支配を土地から流通に置き換えた絶対王だった。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界史』
著:鈴木 旭 日本文芸社刊
いま地球規模の「人類史」という観点からも注目され、一方で一般教養、知識としても人気が高い「世界史」。世界規模の歴史を学ぶ上で大切なのは、歴史を流れとして捉えること、歴史にも原因と結果があり「なぜ」そこに至ることになったのか大もとの理由を理解すること、そして見ただけで忘れないようにビジュアルで視覚的覚えること。本書ではさらにアジアや日本の歴史とその役割にも重点を置き、最新の発見や新しい史論を取り入れた、世界史の学び直しにも、入門にも最適な知的好奇心を満足させる1冊。
公開日:2023.01.17