理論3:子どもは遊びで発達させよう③
○理論解説のポイント!
- 子どもは遊びで発達する
- 子どもは1mmも変えない:社会モデル
- 覚醒レベルの理解と支援:交感神経・副交感神経のバランスに注目
【知識・学習】保育アプローチの工夫
子どもが自分の意思とは関係なく体が動いてしまうことへの対応としては、マッサージがおすすめです。
たとえば、座っているときに足をバタバタさせるのであれば、足をマッサージするというように動かしている部分こそ感覚を入れたい部位です。手全体でしっかりと、または親指などで部分的に一定のリズムで圧迫刺激を入れてみましょう。本人が心地よいと思う程度の強さが基準です。気持ちよいかどうか、本人に確認しながらやってみましょう。
また、衝動的に動き出す子どもの場合は、「原始系」が強く脳が興奮状態なので、固有感覚を刺激して、筋肉や関節に意識が向くようにするとよいでしょう。脳や感覚が未熟なのでこのような状態はしばらく続くかもしれませんが、マッサージを上手に取り入れて、「落ち着く」という実感をもつ体験を積み重ねていきましょう。
【アイデア提案】ケーススタディー:興奮した子を落ち着かせる
5歳児の Eさんは興奮しやすくて、Eさんにつられてクラス全体が落ち着かなくなったり、自由遊びのときはケンカに発展したりすることもあります。そこで、「気持ちがざわざわしたり、落ち着かなかったりしたとき」には次のような対応をすることを提案しました。
- 好きなパズルをする
- 先生にマッサージをしてもらう
- 好きな電車の本を読む
興奮したときにどうやって落ち着くか、手立てを一緒に考えました。「気持ちの温度計※」も取り入れ、自分の状態を把握しながら、適切なスキルを使うことを支援しました。
すると、Eさんは興奮しきる前にスキルを使うことができるようになり、大人と相談する機会も増えました。成功体験を重ねられたのもよかったのですが、大人と相談し解決策を見出すというプロセスの重要性を感じました。
※「気持ちの温度計」は、「安心」「ふつう」「楽しくない」「頭にくる」「ばくはつする」など、感情を可視化してあらわすツール。
【理論解説】交感神経・副交感神経を知る
覚醒レベルへのアプローチを、交感神経と副交感神経に注目して考えてみます。
交感神経は、体の機能を活発化させるため働きます。たとえば、運動をしているときは心臓の鼓動が速くなったり血圧が上がったりしますよね。覚醒レベルの調整がうまくいかずに高まりすぎてしまうと、子どもは「興奮モード」となり、がんばり続けて困った行動も起こりやすくなります。
また、交感神経が過度に優位になりすぎると、体のさまざまな不調につながります。
一方、副交感神経は、おもに休息しているとき優位に働きます。血圧を下げたり心拍数を低下させたりするのが、副交感神経の役割です。副交感神経が優位となるのは、リラックス時や入眠中などです。
副交感神経はリラックスの印象が強いので「体によいもの」と思われがちですが、副交感神経の働きが強すぎたり、適切なタイミングで働かなかったりすると、不調の原因になります。
【知識・学習】大切なのは交感神経・副交感神経のバランス
交感神経・副交感神経の2つはどちらがよい、悪いというものではなく、状況に応じてバランスよく切り替わる状態が理想的です。
日中、勉強や仕事に集中したいときには交感神経が優位になって、夜にぐっすり休んで疲れをとるときには副交感神経が優位になって「お休みモード」になるのがよいでしょう。
この調整がうまくいかないと、子どもは午睡時なども「興奮モード」に入ってしまい、うまく休むことができません。もしくは、日中に活動に集中するべきときに「お休みモード」に入ってしまう事態になります。
このバランスをマネジメントするために、大人が子どもの覚醒レベルの状態に応じて支援することが必要です。
【交感神経】
- 脳→興奮や緊張をさせる
- 目→瞳孔を拡大させる
- 血管→収縮させる
- 心臓→心拍数を増やす
- 胃腸→働きを抑える
【副交感神経】
- 脳→リラックスさせる
- 目→瞳孔を縮小させる
- 血管→拡張させる
- 心臓→心拍数を減らす
- 胃腸→働きを促す
覚醒レベルが高い状態から落ち着かせる(副交感神経に働きかける)
- マッサージなどの一定のリズムで圧迫刺激を入れる
- 好きなひとり遊びに集中させる
- リラックスするアイテムを提供する
落ち着くためのコツ→お茶を飲む、砂時計を見る
覚醒レベルが低い状態から目覚めさせる(交感神経に働きかける)
- 好きなひとり遊びで活動性をあげる
- 簡単なエクササイズを大人と行う(ヨガポーズなど)
- 頭や足の裏をマッサージしてもらう
目覚めさせるコツ→好きなひとり遊びの例
【ミニコラム】覚醒レベルの調整に知っておきたい3R
3R とはリアクト(気づく)、リラックス(緊張をとく)、リセット(元に戻す)というR からはじまる 3 つの言葉です。自分の覚醒の状態に気づき、緊張をとき、もとに戻すというプロセスです。子どもは、自分では気づきにくいので、大人がリラックスするツールや環境を用意してもとに戻します。覚醒が下がっているときも同様に、調整を図る支援を展開しましょう。覚醒レベルがあがりすぎるか、下がりすぎる前にかかわることも必要ですね
【出典】『発達が気になる子の感覚統合遊び』著:藤原里美
【書誌情報】
『発達が気になる子の感覚統合遊び』
著:藤原里美
子どもの困った行動には意味があり、感覚統合の視点から理解すると、これらは感覚情報の処理がうまくいかない結果であることがわかります。感覚統合は「発達凸凹」の子どもたちの支援に重要で、「遊び」を通じて子どもの能力を引き出す方法が強調されています。「発達が気になる子の感覚統合遊び」では、理論編と実践的な遊び編で構成されており、100以上の遊びを紹介しています。遊びを通じて子どもの情動を安定させ、成長を促すことを目的としており、子どもの理解と支援を促し、幸せな未来を共に築くために読んでおきたいおすすめの一冊です。
公開日:2024.08.07