第7回 キャリア17年にして若干27歳!? 稀代の女子レスラー”里歩”が歩み続けるAEW最高峰奪還への道

Text:岩下英幸

真骨頂のファッショナブルなコスチュームを身にまとって登場する里歩
– 2024年7月6日(現地時間)ミシシッピ州サウスヘイブン ランダース・センター –

 

■日本プロレス史上過去に類を見ない驚愕のキャリア

まず初めに断っておきたいのだが、今回のコラムの題名は決して誤りなどではなく、ある女子レスラーの偽りのない本当の経歴であり、その持ち主こそがAEWに現在所属する“里歩”のものだ。

およそプロレスラーのデビューといえば、高校や大学卒業後に団体の入門テストに合格した後、練習生としての修行期間をまずこなす必要がある。リングでのイロハの習得や基礎体力づくりなど、大きな怪我などをせずに連日試合をこなすだけのタフで強靭な肉体に鍛え上げるためだ。そうした入念なトレーニングの時期を経て、やがて若手新人としてようやくデビューを果たすのがほぼ常識的な流れだが、その年齢は相当な逸材でもなければだいたい二十歳前後というのが一般的だろう。

だが、里歩はプロレスデビューがわずか9歳、小学3年生の時だというのだから、その衝撃的なデビュー記録はこれ以降決して破られることのないほどの驚愕さだ。無論、当初はその年齢で本格的なレスラーとの対戦をこなしていわけもなく、「小学生対決」といった多分に企画的な色モノ的扱いであったことは否めないものの、今現在までの里歩の華々しいまでのスターロードを語るには、決して無視できないものだ。その後、、若干12歳で後楽園ホールにおけるプロレス興行のメインイベンターを史上最年少で務めたことでも分かる通り、里歩の才能は極めて本物だったのだ。

しかも、里歩の場合、常に女子レスラーを相手に試合をこなしていたというわけではなく、インディー団体であるDDTへと所属するのをきっかけに、先の回のコラムで登場したマイケル中澤を筆頭に、鈴木みのるや飯伏幸太、さらにはケニー・オメガといった男性レスラーとまで好試合を繰り広げるどころか、勝利まで奪ってみせているのだ。若いとはいえ、周囲の期待に応える里歩の逸材ぶりが分かる戦歴ぶりと言っていいだろう。

 

■ケニー・オメガの大抜擢に応えてのAEW初代女子王座戴冠

そんな里歩がケニー・オメガに見出されて降り立った新天地が、まさしく今現在彼女が活躍するAEWのリングである。2019年、団体の旗揚げ当初のPPV大会で、同じく所属となった志田光との熱戦を制した後、同年に開催された初代女子王座決定戦にて、巨漢女子レスラーであるナイラ・ローズを下し、AEW団体内の女子レスラーとして初の頂点に君臨したのが里歩だったのだ。リング上で涙ながらに戴冠を喜ぶ里歩に話を聞くべく、インタビュアーとしてリングに登場したマイケル中澤が、負けた腹いせとばかりにナイラ・ローズになぜかパワーボムを喰らってマットに沈められてしまうというシチュエーションは、未だに語り継がれる初期AEWの名場面だ。

その後、惜しくもナイラ・ローズによるリベンジを許し、女子王座の座からは遠ざかってはいるものの、里歩の王座戦線への期待は衰えることはなく、再度の戴冠はならないまでも王座戦のメインストリームにチャレンジャーとして度々登場し、あと一歩のところで苦杯を舐めさせられている。だが、そうした際の敗退は、常に相手レスラーによるブラインドでの反則技からフォールを奪われるといった試合のため、里歩とまともに闘っては勝ち目がないと悟った、相当に捻じ曲がったリスペクトとも言えるだろう。里歩本人にとっては、まったくもって嬉しくない話だが、彼女のステータスがAEWの中でも依然高い位置にある証明にもなっていることは間違いない。

■誰も真似のできない驚異的な身体能力と柔軟性

そんな里歩のファイトスタイルといえば、155cmという小柄な体格でありながら、リングを縦横無人に駆け巡るスピード感あふれるアグレッシブさが特徴だ。リングロープを巧みに使ったダイナミックな変則技に加え、場外の相手にも臆せずダイビング技を決める空中殺法もお手の物。また、AEWの実況解説では”メテオラ”と呼ばれる、座り込んだ相手に走り込みながら両膝を突き刺す強烈な打撃技「蒼魔刀(そうまとう)」というエグ過ぎるフィニッシュホールドまで使いこなす。その上、自身より大きい体格のレスラーとの試合が常ながら、しっかりとしたレスリングムーブまで披露してみせるポテンシャルの高さまである。

加えて特筆すべきなのが、類稀なる柔軟性と身体能力の高さから繰り出される、彼女にしかできない技やムーブの数々をこなすことも、会場に集まったAEWのファンを大いに唸らせる。そのレパートリーはそれこそ枚挙に暇がないのだが、強いてあげるとすれば相手がフォール勝ちを狙うべく、ダウンした里歩に覆い被さった際、そこからノーハンドのブリッジでするりと足元から抜けてしまうムーブだろう。毎試合、このムーブを披露した際には、待ってましたとばかりの会場からの大歓声が里歩に対して起こるのだ。これなど、初の女子王者というステータスの面だけでなく、里歩がこれまで日本で培い、究極にまで洗練された実力のほどを、AEWファンがしっかりと認識していることの証左だろう。

 

■期待がかかる女子王座再奪還へ

現在、里歩は今年7月の試合中に、相手へのダイビング技をしかけた着地の際のアクシデントで右手首の尺骨を骨折してしまい、残念ながら現在負傷欠場中となっている。ちなみにその日は負傷後もそのまま試合を続行し、勝利までもぎとってしまったのだから、その並々ならぬ精神力とプロ意識の高さにはほとほと圧倒されてしまう。なお、前述のマイケル中澤氏の話では順調に回復して既にリハビリに入っており、10月頃には再び女子戦線に戻れるだろう、とのことで一安心だ。

初代女子王座の戴冠からすでに5年もの月日が流れ、この間、同王座を巡る争いは旗揚げ当初からは比べ物にならないほどの熾烈さを極めているが、このコラムでも紹介した志田光と合わせ、願わくば再びの王座戦線への華麗なる復帰を期待してやまない。

そしてこれは筆者の限りなく妄想ではあるものの、来たる2025年1月5日、AEWによる本格的な日本進出興行である「WRESTLE DYNASTY 東京ドーム大会」において、里歩の華々しいまでの凱旋を、志田光と共に女子王座戦のタイトルマッチとして飾ってくれることを、嫌が上にも夢見てしまうのである。

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