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小山洋二さん 【巨樹・巨木図鑑】“私が巨木に惹かれる理由” インタビュー #3

『巨樹・巨木図鑑』の著者、小山洋二さんにお話を伺ったインタビューの最終回です。小山さんが巨木巡りを始めるようになったきっかけや、巨木の魅力とその思いについてお話します。

 
取材・文:別府優希


 

多くの人は巨木といえば「神社などによくある大きな木で、しめ縄や白い紙(紙垂/しで)が巻いてある木」や、有名な「屋久島の縄文杉」を思い出すぐらいの認識ではないだろうか。
そこで小山さんに、「一度は見てほしいおすすめの巨木」を厳選していただいた。

小山洋二さんおすすめの巨木

「巨木の魅力が伝わりやすい木を選んでみました。山奥の巨木もあれば、わりと行きやすい場所もあるんですけど……」

■細蔵山 幻の大杉(富山県)
■加茂の大クス(徳島県)
■志々島の大くす(香川県)
■花脊の三本杉(京都府)
■高井の千本杉(奈良県)
■松保の大スギ(山形県)

▲細蔵山 幻の大杉(富山県、幹周11.9m、樹高23.0m、樹齢1,070年

▲加茂の大クス(徳島県、幹周13.0m、樹高25.0m、樹齢1,000年以上)

▲志々島の大くす(香川県、幹周14.0m、樹高40.0m、樹齢伝承1,000年)

「とくにおすすめなのは、富山県の『細蔵山 幻の大杉』です。2013年に発見された推定樹齢1,000年以上の大スギで、立山杉としては最大級です。主幹から分岐した太い幹が株立ちとなり、30本で樹冠を形成しています。2013年まで発見されなかったのは、それまでは登山道がなくて、細蔵山の難易度が高かったからなんです」

新発見!富山の大杉たち

「この大スギを見た時、『この周辺にはまだまだ巨木がある』と直感し、この本でも紹介している『根室蛇杉(ねおろちすぎ)』『兜大杉(かぶとおおすぎ)』『炎柱杉(えんちゅうすぎ)』を発見できました」

▲根大蛇杉(富山県、幹周 不明、樹高 不明、樹齢 不明)

兜大杉(富山県、幹周 不明、樹高 不明、樹齢 不明)

炎柱杉(富山県、幹周 不明、樹高 不明、樹齢 不明)

小山さんが発見した巨木は、本書では小山さんが名付けた。『炎柱杉』など、支幹が炎のように昇りたつように見えて、巨木の形状を見事に言い表す絶妙なネーミング。それまで存在すら知られていなかった大樹が身近に思えてくるから不思議だ。

では、小山さんが個人的に気に入っている巨木はあるのだろうか。

高台にある薬師堂を包み込むクスノキのもとで

「私の好きな木は愛知県の『寺野の大クス』です。巨木としてはマイナーにはなるんですが、木の根が露出してでこぼこしている全国的にも珍しい形の木です。自宅から1時間ぐらいで行ける気軽さもあり、物思いに耽りたい時は、その木に会いに行くんです。すぐそばに薬師堂があるので、座ってぼーっと眺めたりしています。なぜか心が落ち着くんですよね」

▲寺野の大クス(愛知県、幹周12.0m、樹高36.0m、樹齢 伝承1,000年)

小山さんが20年前に巨木巡りを始めたきっかけは「水巡り」だったのだそう。

きっかけは「源泉探し」

「もともとは源泉の水を飲みたくて、川の大元や水が湧いている場所を訪ねていました。行ってみると、大きな木の根本から水が沸いていたり、近くに大きな川が流れていることが多くて、興味を持ったんです。巨木好きになった決定打は山梨県の『日影のトチノキ』を見た時でした」

「『こんなに大きいものが存在するのか!』と、結構な衝撃と感動を受けましてね。そこから、巨木を巡るようになりました」

巨木に惹かれる理由とは?

小山さんが巨木に惹かれる理由はどんなところにあるのだろうか。

「理由……というより、巨木に会うと、最も心が動くんです。衝撃、感動、悲しみ……、喜怒哀楽の心が全部揺れ動くんです。人は大人になると、ちょっとやそっとじゃ驚くことがないと思うんです。でも巨木に会うと毎回驚きます。『なんだこれはぁぁあ!』と。巨木の周りをぐるっと回って子供みたいに大はしゃぎ、みたいなことになってしまうからです」

小山さんの感動っぷりがしっかりと伝わってくる。“悲しみ”まで感じてしまう理由を聞いてみた。

「樹齢1,000年とか2,000年という点は、伝承だったりして定かではない部分もありますが、巨木は地球上で最長老の現役の生き物です。
その最長老も倒木したり、朽ちたりして、いずれは死んでしまいます。私の巨木巡りのきっかけになった『日影のトチノキ』も大枝が折れてしまったので、本書には掲載できませんでした」

「私はいつも『2,000年生きていらっしゃる最長老』を敬う感覚で巨木に会いに行きます。スピリチュアル的な考えになるかもしれませんが、私は巨木に触って、木のエネルギーを自分に入れて、自分のエネルギーも木に入れる、みたいな感覚なんです。弱っている巨木がいれば『よかったら自分のエネルギーをどうぞ』と循環させる感じ。柵がない場合ですけどね」

「クジラを保護、イルカを保護ってよく語られますけど、木を保護ってあまり聞きませんよね。人間のエゴであっさり伐採、台風で倒れても誰も知らない、それは寂しい話です。
私の巨木巡りもちょっと使命感的なものでいえば、先人が残したものを記録として残し、伝えていくという考え方に、年々変わってきています。この本にはそんな思いも込めました」

▲「巨木探しは、登山とは大きく違う。登山が山頂を目指すのに対して、巨木探しは目的地がわからない探検のようなもの」と小山さんは語る

最後に『巨樹・巨木図鑑』刊行後の、今の素直なお気持ちをお聞かせください。

「読者の方から『実際に本を持って旅に出ました』という報告をいただいて、とってもうれしかったです。買っていただいただけでもありがたいのに、巨木に興味がなかった人が、自分が撮った写真を見て行動してくださった。それが僕が巨木の写真を撮る意味と願いなので、それがこの本で叶いました」

「2023年は47年間生きてきた中で一番行動したと思います。『いつかは全県の巨木を制覇しよう』と考えていた長年の夢も実現できました。最後の県、栃木を訪れた時のやり切った感はすごかった! 山中での巨木探しはハードですが、いつも心が小躍りしていて楽しいんですよ。 やっぱり巨木が好きなんでしょうね」

 

所在地非公開の「森の巨人」屋久島の七尋杉を目指した冒険記も収録した『巨樹・巨木図鑑』。ハンディサイズ図鑑とは思えぬその迫力は必見!
興味を持たれた方は、まず本書の二次元コードで巨木の位置を調べてみるのも一興。
もし近くに存在していたら、ぜひ訪れてみてほしい。
何百年、何千年と厳しい自然の中で、大地に根を張って生き抜いた巨木の勇姿に感銘を受けるだろう。

 

【書誌情報】
書名:巨樹・巨木図鑑
著者:小山洋二


 

【著者紹介】
小山洋二

1977年生まれ。巨木カメラマンとして20年、仕事の傍ら日本全国へ巨木を求め飛び回る。未知の巨木を探して、近年は屋久島・富山へ何度も訪れている。本業はインターネットショップ株式会社HAPPYJOINT代表取締役を務める。
ホームページ:『巨木の世界』https://bigtrees.life/