第17回 竹下幸之介、宿敵ケニーに敗れ無念の王座陥落 ~満を持してのベビーターンへの契機となるか?~

Lee South
Konosuke Takeshita vs Kenny Omega
Los Angeles, CA
AEW Revolution
March 10, 2025 Lee South
Konosuke Takeshita vs Kenny Omega
Los Angeles, CA
AEW Revolution
March 10, 2025

今年初となるPPV大会「Revolution」において、挑戦者ケニー・オメガに屈してインターナショナル王座を明け渡した竹下幸之介。その胸中に去来するものは、果たして ― 。 – 2025年3月9日(現地時間) カリフォルニア州ロサンゼルス クリプト・ドット・コム・アリーナ –


■DDTで同門だった二人がPPVで魅せた死闘
まさに”好勝負”と呼ぶに相応しい一戦 ― 。去る3月9日(現地時間)、今年初となるPPV大会「Revolution」において行われた、インターナショナル王座チャンピオン・竹下幸之介と挑戦者ケニー・オメガとの試合は、壮絶な激戦の末にケニーが竹下を破り、同王座初戴冠となった。

試合は、序盤から両者ともに感情を剥きだしにした打撃戦で始まるも、レフェリーのブラインドをついた場外でのドン・キャラスによる、ケニーへの執拗な邪魔立てもあり、徐々に流れは竹下のペースへ。中盤には、縦に設置したテーブルのヘリに、フロントのフェイスバスターの要領でケニーの腹部を突き立てるなど、容赦ない攻撃は苛烈さを増していく。

だが、コーナー最上段からの雪崩技を狙った竹下を、エプロンからのスワンダイブ式パワーボムという、離れ業で切り返したケニーが流れを強引に引き戻し、その後はお互いの必殺技を喰らわせ合いつつも、両者ともカウント3ギリギリでキックアウトするという白熱した展開に。最後はスリリングなラ・マヒストラルの仕掛け合いによるカウントの奪い合いから、竹下の隙をつく形でケニーがピンフォールを奪い取り、この熱戦に終止符を打って見せた。

かつては、DDTプロレスのリングにおいて、人気実力共に絶頂だったケニーと、”フューチャー”の異名で早くから将来を嘱望された新人の竹下とが、今こうして本場アメリカのAEWという団体の、しかもPPVの大舞台で相まみえ、これだけの好勝負を繰り広げるまでになろうとは、一体誰が想像し得ただろうか。

■インターナショナル王座のこれまでの数奇な変遷
当コラムでも詳報をお伝えしたが、2024年10月にウィル・オスプレイとリコシェのライバル争いに、なかば強引に割り込んでの変則トリプルスレットマッチに勝利したことで、竹下にとってAEWでの初めてのベルト戴冠となったのが、このインターナショナル王座だ。今回、ケニーに明け渡すまでにAEWマットはおろか、今年の1.5東京ドーム大会「WRESTLE DYNASTY」でも防衛戦をこなすなど、およそ5ヵ月近くに渡って守り抜いてきた。

AEWインターナショナル王座は、もともとは2022年に開催されたAEWと新日本による初の合同興行である「Forbidden Door」の目玉の一つとして新設された、オール・アトランティック王座が前身となっている。この時の初代王者パックを下して第2代王者となったオレンジ・キャシディによる、実に1年近くにも及ぶ防衛ロードの最中、現在のインターナショナル王座へと名称が変更された。その後は、ジョン・モクスリー、レイ・フェニックス(2025年退団)、ロデリック・ストロング、ウィル・オスプレイ、MJFと、名だたるトップレスラーがその腰に同王座ベルトを巻いてきたが、今回第11代王者としてケニー・オメガの名が、新たに歴代のヒストリーに加わることになったのだ。

■王座を失った竹下への今後への期待
およそ2年以上ぶりとなるベルトを手にしたことによって、ケニーによる同王座を巡る今後の争いは俄然注目が集まるのは疑いないところだが、筆者としてはむしろ今回の敗戦による、竹下の今後の動向にこそより大きな注目を寄せている。

というのも、現在竹下が所属する”ドン・キャラス・ファミリー”だが、新日本から移籍して加入したカイル・フレッチャーも同PPV大会において、ウィル・オスプレイとの間の壮絶な金網マッチで同様に敗北し、ユニットとしての勢いがかなり削がれた形になっているのだ。加えて、竹下がインターナショナル王座を手放したことで、ユニット内にはチャンピオンが一人も居なくなり、ヒール軍団としての権勢が、一気にトーンダウンする可能性も否定できない。

ここからは、例によって筆者による妄想だが、実力と存在感の両面ですでにトップレスラーとしての風格を醸し出しつつある竹下が、ユニットに反旗を翻す形で離脱し、あらたにベビーターンしてケニーやオスプレイと結託することで、また一回り大きな竹下幸之介像がAEWの中で確立できるのではないだろうか。

竹下が持つ本来のファイトスタイルは、ローブローや目潰しといった伝統的なヒール技を一切使わず、極めてオーソドックスなものだ。そのパワーとポテンシャルとで、多くの対戦相手をなぎ倒してきた実力のほどは、今やファンにも十分に認知されていることだろう。試合の最中、つねに悪いことをしていたのは、竹下本人ではなく、ひとえにドン・キャラスだけだったわけである。

プロレスにおけるベビーターンは、ヒールターン以上に難しい面を秘めているのは、もはやプロレスファンにとっては常識だ。ベビーがヒールになるには、ただ一点。それまで共闘していた仲間を裏切り、悪いことをしてしまえばそれだけで”彼はヒールになった”と認知されてしまうからだ。会場のファンはそれまで以上にブーイングを浴びせればいいのであり、ファンによる負の心理をくすぐるのは極めて容易だ。これを実践している代表例となれば、オカダ・カズチカが筆頭に挙げられるだろう。

しかしながら、これがベビーターンということになると、おのずと事情が変わってくる。ヒールがベビーへとターンするには、ファンにとってそのターンが必然であることを感じさせ、納得させるだけの十分なストーリー展開と、なによりレスラーとしてのバックボーンが後ろ盾として欠かせないからだ。悪事ばかりを働いていたヒールが、突然翌日からベビーになったとしても、そう簡単に信用できるものでもなく、ファンがすぐさまに声援を送りたくなる心理になるというのも、なかなかおぼつかない話だろう。

だが、竹下の場合は前述したように、ベビーとしても通用するレスリングスタイルが既に確立された存在であり、何よりいつも悪さをして勝利を騙し取るようなキャラクターではないことが、最大のメリットとして活きてくる。ベビーとヒールの両方を巧みに行き来し、その都度ファンの心理をいい意味でもてあそぶことのできる、ケニー・オメガやクリス・ジェリコ、MJFやジョン・モクスリーといった団体内の超実力派レスラーと肩を並べるべく、竹下がさらにキャリアの高みへとのし上がるための、絶好の機会が今まさに訪れていると言えはしないだろうか。

現に、PPV大会後に放送されたDynamite!にも登場した竹下だったが、この日は、常に傍らにいるドン・キャラスの姿が、不思議と入場時に見かけられなかったのだ。これはいよいよベビーターンへのXデーが、刻一刻と近づいてきている前触れと考えられはしないだろうか。

筆者の妄想はそんな風に、いつもながら大いに膨らむばかりなのである。

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