【野球ごはん⑯】ケガをした時の食事について≪令和版≫


ケガから回復中の食事について
選手から「ケガをしました。しばらく運動量が減ります。でも、体重を増やしたくないです。食事量を減らした方がいいですか?」と、質問を受けることがあります。私は選手に「食事量を減らしすぎると、ケガの回復に必要な栄養素が足りなくなってしまいます。体重は、多少は増えるけれど、練習に復帰したら、増えた体重を落とすことはできるので、心配しないでください」と答えています。
ケガをした時、手術を受けた時は、筋肉などが傷ついていますので、炎症を起こしています。炎症が起こると血流量が増えるため、体水分量が増えます。選手にとっては「むくみ」や「腫れ」として感じることが多く、結果的に体重も増えます。
練習ができない間、食事量を減らし過ぎるとケガの回復に必要な栄養素が足りなくなります。まずはケガを治すことが最優先です。見方を変えると、多少体重が増えるということは、食事から補給した栄養素が届いているとも考えられます。(表1)は、厚生労働省が発表しています日本人の食事摂取基準の1日あたりの推定エネルギー必要量です。

身体活動レベルの説明について(表1)の「身体活動レベル」の目安は、次のように考えるとイメージしやすいでしょう。「低い:自宅で静かに過ごしている日」「ふつう:学校に通うが、練習のない日」「高い:運動や練習をしている日」。
ケガをしている時、運動量が減りますので、身体活動レベルは「低い」または、「ふつう」と考えてよいでしょう。ただし、選手によってケガの状況、回復状況は違います。例えば、ベッドに安静のため動けない、リハビリできる、車椅子で移動できる、松葉づえで移動できるなどによっても消費エネルギー量は変わります。体重変動、体調をみながら、体重が大きく増えない範囲で食事量を調整します。
食事は、練習のある日に比べて、ごはんやパンなどの主食、肉・魚料理の主菜を減らします。ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な野菜、きのこ、海そうは減らさないようにしましょう。例えば、身体活動レベル「ふつう」の場合、1食あたりのエネルギー量は、約500~900kcalになります。ごはんの量は、約100~300gが目安になります。
選手の自己流で食事量を調整するのは難しいことも多いため、可能であれば栄養士、管理栄養士に相談することをおすすめします。
ケガの回復を助けると期待されている栄養成分
ケガの回復を助ける栄養成分について、多くの研究が行われています。今回は(文献)を参考に期待されている栄養成分を紹介します。ただし、いずれの成分も補給したら早く回復できるとは言い切れません。論文には「可能性はあるが、今後も実験など研究を行う必要がある」、「取りすぎると回復が遅れる場合もある」と書かれています。以下は、あくまで「期待されている栄養素」として参考にしてください。
① たんぱく質(肉、魚、卵、豆・豆製品、牛乳・乳製品など)。とりすぎると、体脂肪が増加することがあります。体重の変化をみながら、量を調整しましょう。
② カルシウム(小魚、豆・豆製品、青菜類、牛乳・乳製品など)
③ ビタミンD(魚、卵、きのこなど)カルシウムの吸収を助けます。
④ オメガ3脂肪酸(魚、くるみ、エゴマ油、アマニ油など)筋肉の炎症をやわらげる可能性があると期待されています。しかし、取りすぎると体脂肪が増加することがあり、注意が必要です。
⑤ ビタミンA、C、E、(緑黄色野菜、果物、種実類など)抗酸化ビタミンと呼ばれ、筋肉の炎症を軽減する可能性があるとされています。
⑥ コラーゲン(後ほど記述)
ケガの回復とコラーゲン補給について
選手から「じん帯や関節を痛めた時、サプリメントのコラーゲンペプチドを補給するとケガの治りは早くなりますか?」という質問が増えました。私は、「ケガの治りが早く治る可能性はありますが、まだ研究による検討が必要です。しかし、可能性はあるので、補給してもいいですよ」と答えています。補給したコラーゲンは、体内でアミノ酸やペプチド(アミノ酸が数個つながった状態)に分解して吸収されます。つまり、肉や魚、卵、大豆製品などのたんぱく質食品をとれば、体内でコラーゲンを合成することが可能です。また、最近はコラーゲンを補給した方がケガの回復が早い可能性がある、関節の痛みが軽減した、と発表している研究論文があります。コラーゲンをとることにより、体内に「コラーゲンを合成しなさい」と指示を出す機能があると考えられています。
「コラーゲンを含むサプリメントを利用したいが、ドーピング禁止成分が含まれていないか心配。食品からとれませんか?」と質問する選手もいます。(表2)は、食材100g中に含まれるコラーゲンの量です。牛スジや豚もつなどの内臓部位、なんこつ、骨つき肉・魚、魚の皮などに多く含まれています。スーパーなどで手に入りやすい食材です。

そして、コラーゲンを体内で合成するにはビタミンCが必要です。ビタミンCは、緑黄色野菜、果物、いも類などに含まれています。これらの食品を一緒に食べてください。
・参考文献
日本人の食事摂取基準(2020年版), 厚生労働省
野口知里,小林身哉,小山洋一,20代から50代日本人女性における食事由来コラーゲン推定摂取量の特徴.栄養学雑誌,Vol70,No2, 2012,120-128.
Hüseyin Hüsrev Turnagöl ,et al. Nutritional Considerations for Injury Prevention and Recovery in Combat Sports, Nutrients. 2022 Jan; 14(1): 53.
Kevin D. Tipton, Nutritional Support for Exercise-Induced Injuries, Sports Med,2015, 45 (Suppl 1):S93–S104.
Graeme L. Close,et al. Nutrition for the Prevention and Treatment of Injuries in Track and Field Athletes, International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 2019, 29, 189-197.
James Collins,et al. UEFA expert group statement on nutrition in elite football. Current evidence to inform practical recommendations and guide future research, Br J Sports Med 2021;55:416–442.
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