水の表面張力と界面張力
ガラスのコップに水を注いで横から見ると、コップの壁面近くで水面が少しせり上がっていることがわかります。
ここでは、この現象に深く関わっている表面張力と界面張力について考えましょう。
私たちの身の回りのものは、分子からできています。分子のエネルギーは、分子が1つの場合よりも、周囲の別の分子と引力を及ぼし合っているときのほうが低いのです。
液体内部の分子は、全方位にいる分子のためにエネルギーが低下します。ところが、液体表面の分子は、表面の外側に液体分子がいないので、内部の分子よりもエネルギーが下がりません。つまり、液体の表面(環境が不連続に変化する領域)が大きいと、全体のエネルギーが高くなります。そこで液体は、エネルギーの安定を求め、表面を小さくする表面張力(γLV)を面に沿って発生するのです。
水道の蛇口から垂れる水滴が丸いのは、球体が同じ体積で、表面積の最も小さな形だからです。
また、固体の場合、分子は自由に動けません。その代わり、周りにいる他の分子を表面に付着させることでエネルギーを下げようとします。この引力は固体本来の表面を小さくするように働くので、固体の表面張力(γSV)といえます。
液体と固体が接している界面の場合、互いの分子は引き合いますが、環境が不連続に変化する境界のエネルギーが高いため、界面を小さくする力が働きます。これが界面張力(γSL)です。これらの力は物質や物質の組み合わせで決まります。
冒頭のコップの場合、ガラスの表面張力は強く、水との界面張力は弱いために水は壁面に沿って引き上げられます。また、粘性によって近くの水も引きずられ、水の表面積も増えます。そのため、ある程度までせり上がったところで表面張力と引き上げる力が釣り合って安定するのです。
では、撥水性の高いテフロンでできているコップではどうなるでしょうか?
テフロンはガラスと逆で、表面張力が弱く、水との界面張力は強い(親和性が低い)のです。そのため、壁面近くの水面は壁面に沿って引き下げられた状態で安定します。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。
水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。
公開日:2023.03.01