「かわいい子には旅をさせよ」は厳しい言葉です
「かわいい子には旅をさせよ」も、間違って使われることが多い諺です。この場合の旅は、世界中を回って見聞を広めなさい、といった「旅行」という意味を表しているのではありません。また、小さいうちから、色々なことを経験させるということでもありません。この諺は我が子がかわいいなら、甘やかさないで世の中のつらさを経験させたほうが良い、という意味なのです。
江戸時代の旅は当然ですが、今のように電車やバスなどの交通機関が発達しておらず、自分の足だけで目的地まで歩いて行きました。暗い山中を抜けて行ったり、追い剥はぎにあったり、様々な予測できないことが起こりうる、とても危険を伴うものでした。このような試練を経験することが、後々役に立ち、立派な大人に成長することになるという、厳しい言葉なのです。「若い頃の苦労は買ってでもしろ」という言葉もあります。若いときにする苦労は必ず貴重な経験となって将来役立つものだから、自分から求めてでもするほうが良いという諺です。若い頃の苦労は自分を鍛え、必ず成長に繋がります。過保護に育てられ、何の苦労も経験しないでいれば、将来、自分のためにはならないのです。「苦労」は「辛労」「難儀」「辛抱」ともいいます。
「艱かんなんなんじ難汝を玉たまにす」という言葉も、地中から掘り出された粗あらた ま 玉も、磨かれると美しい玉になることから、人は困難や苦労を乗り越えて初めて立派な人間に成長するということです。これは日本の諺ではなく「Adversity makes a man wise(逆境は人を賢くする)」という西洋に伝わる諺の意訳です。洋の東西を問わず、同じ意味の諺があるのは、試練はいつか実を結ぶということが、真理だからではないでしょうか。今を生きるためにも大きなヒントとなる言葉でしょう。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 大人のための日本語と漢字』
監修:山口謠司
「ニッポンとニホン使い分けは?」、「なぜ緑色なのに青信号?」「十二支の本当の意味とは?」、「間違って使うと恥ずかしい敬語は?」日本語と漢字にまつわる、とことん面白くてためになる話。単なるうんちくにとどまらない、使える日本語、生きた日本語から、日本人が覚えておきたいしきたりや文化、マナーまで幅広く紹介。図解でよりイメージができ、面白いほどかんたんに、日本語の興味深い「なぜ」と、正しい日本語の知識が増える1冊!
公開日:2021.07.18