明日2月4日から二十四節気は立春(りっしゅん)です。
寒いながらも日足が伸びて、温風が川や湖の氷を溶かす頃。二十四節気の最初の節。ここから新しい一年が始まります。
立春 節の話
この時季、透き通るような甘い香りで早春を感じさせてくれる花といえば、梅ではないでしょうか。梅は、バラ科サクラ属の落葉低木。春告草(はるつげぐさ)という名を持ち、春の訪れを告げてくれる花ともいわれています。葉が芽吹く前の枝にぽつぽつと開き始める梅の花は、色のない世界に春を少しずつ連れてきてくれるようです。
梅は園芸種としては大きく3つに分類されます。枝が細く葉はこぶりで原種に近い野梅系(やばいけい)、木質部中心まで赤色で、濃紅色の花も多い緋梅系(ひばいけい)、アンズとの交配種で枝や葉が大ぶりで実を採取することが多い豊後系(ぶんごけい)です。興味深いことに梅の香りは、この分類と花の色に関連していることがわかってきました。
野梅系に属する白から薄紅色の花は、華やかでフルーティ、パウダリーな甘い香りがすることが多く、この香りはジャスミン、クチナシなどに入っている特徴成分と同じです。緋梅系の中でも花色がピンク色から濃紅色の花は、少しスパイシーな甘さのある香りがします。これはアーモンドや杏仁などに入っている成分と同じです。そのほか、系統はさまざまですが、梅らしい香りを感じる花には、クローブなどに入っている合成バニラの主要成分でもある香りの含有量が多いそう。
このことを知ってから、梅の花を見つけるとついつい鼻を近づけて、その香りを確かめてしまうようになりました。忘れられない香りの思い出といえば、熱海梅園梅まつり(静岡県熱海市)に行ったときのこと。梅園に近づくにつれ、姿は見えずともふんわりと梅の香りが漂い始め、園内に入ればまさにそこは天国。充満する匂いに全身が包みこまれ、指の先まで香りが染み渡るようなはじめての感覚、あの高揚感は唯一無二の体験でした。
花見といえば今は桜が主ですが、梅の香りを楽しみながら鑑賞する梅見は人気が高かったようです。奈良時代の「万葉集」では桜よりも梅の方がはるかに詠まれており、日本人の梅への親しみを感じます。香りのよさも鑑賞の対象であった梅見は情趣にあふれており、当時の人々の心の琴線に触れたのでしょう。
梅の一輪挿しは無骨な枝と可憐な花が織りなす春の舞
梅の香りは日本人にとって春の息吹を感じる親しみ深いもの。少量でもかなり香るので、部屋に一枝あるだけで、たちまち甘い香りに包み込まれます。
梅の花は一節に一輪、枝に直接くっついて咲くのが特徴。一輪挿しにすると、雄々しい枝ぶりがきわだち、ごつごつしたその質感と清楚な花の対比がなんとも見事。咲き終わった花がらはこまめに摘んであげると見た目も美しく長持ちします。
ひと手間が枝ものを長持ちさせる
枝を活けるときは吸水面を増やすため、縦に枝を割ります。太い枝は2~3cm、十字に割ると吸水面が増えて長持ちします。
本記事はつくりらからの転載です。
【書誌情報】
『二十四節気 暦のレシピ』
猪飼牧子・清水美由紀 著
古くから季節を表す言葉「二十四節気 七十二候」をテーマに、季節の移り変わりを花や植物で感じながら、ものづくりの楽しみを提案。小さな変化を繰り返しながら、季節とともに四季をたどっていく植物。その時季の植物をアレンジメントや料理やおやつに生かしたり、心と体を健やかするハーブやアロマを活用したり、ちょっとしたおもてなしの小物をつくったり。二十四節気を植物とものづくりで体感できるアイデアとレシピ120を紹介します。
関連サイト
美しい手工芸と暮らしのサイト、「つくりら」へようこそ!「つくりら」は、手工芸を中心に美しいことやものを紹介するwebメディアです。東京の出版社、日本文芸社が運営しています。
公開日:2024.02.03