SPORTS COLUMN
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自らも成長する名コーチ。石井琢朗さんトークショー

Text:遠藤玲奈

横浜ベイスターズ、広島カープで活躍し、現在はヤクルトスワローズで打撃コーチを務める石井琢朗さんのトークショーに行ってきました。
客席は満員。いちばん多いのはベイスターズファンですが、カープやスワローズのユニフォーム姿も見られます。ベイスターズ時代の写真を使った手作りのオリジナルグッズを持参する熱血ファンに、石井さんはやや照れながらも嬉しそうです。

潜在能力を最大限引き出す

よい指導者とは。
難しい問いですが、謙虚さがひとつの重要な資質ではないかと私は考えます。教えるというとつい上から目線になりがちですが、教えられる側にとってはあまり気分のよいものではないことを、多くの人が経験から知っているはずです。 謙虚でいるといっても、具体的にどうすればよいのか。石井琢朗さんのお話の中にヒントがたくさんありました。

まずは「命令するだけ」にならないことです。ヤクルトスワローズのコーチを務める石井さんは、クラブハウスがオープンする時刻に行って、ランニングを始めるそうです。早く来て走れ、と大声で繰り返すよりもはるかに効果的であることは言うまでもありません。
コーチがこれだけやっているのだと目の当たりにすれば、自分もやらなければ、という気持ちが自然と選手たちにもわき起こるでしょう。

次に、教えられることには限りがあると知っておくことです。
指導は万能ではありません。指導者の能力、指導を受ける側の能力、それらがうまくかみあって伝わるべきことが十分に伝わった時に、成果が表れてきます。
「いい選手はコーチが何もやらなくても勝手に伸びる」という言葉がとても印象に残りました。このような意識のコーチだからこそ、潜在能力を最大限引き出すことができるのでしょう。
教え子の成長を自分の手柄とするのではなく、ただただ誉める。
全ての指導者がそれを心がければ、あらゆる組織がよい方向に変わっていきそうです。

チームとしての筋を通す

チームプレーの重要性についてもお話されていました。
個人と組織を両立させることはできるのか、一方を尊重すればもう一方はないがしろにされるのでは、と私もよく考えます。
自主性という言葉のもつさまざまな側面に触れながら「チームとしてこう戦っていくという筋は通しておくべき」と、きっぱりおっしゃっていました。

「個人の記録を目指したい気持ちもわかるが、やはりチームに徹することが大事」と聞いて、選手それぞれが自分の能力を発揮することを目指せばいいわけではないのだと、個人スポーツしか経験のない私は気づかされる思いでした。

所属する全員が同じ方向を向いていること。
プロ野球のように、そもそも人一倍優秀な選手ばかりで各チームの実力に明らかな差がない場合、勝利をつかむための決め手は、そのベクトルの強さなのです。

2000本安打を達成し、数々のタイトルを獲得している石井さんが名選手だったことは間違いありません。ですが、「コーチになると自分がやりたかった野球を実践できる」という言葉を聞いて、名選手である以上に名指導者なのかもしれないと感じました。

プレーしないからつまらない、というモチベーションの下降は一切見えません。
選手時代に培ったものが、引退後、コーチとして見事に花開いています。
自分の力ではないと石井さんは謙遜しますが、広島カープの躍進への貢献は大きいはずです。前年の最下位から2位まで上がったスワローズは、2019年、どうなるのでしょうか。

今でも日々成長中

いい選手は勝手に伸びる、に続けて「僕らの方が育てられている」と石井さんは言いました。まさに謙虚さを象徴する発言ですが、実際、石井さんは日々「育っている」のだと思います。自分自身が成長するコーチが、選手たちを成長させる。伸びるチームの内側には、そのようなプラスのエネルギーが満ちているのです。
息子や娘が、生徒が、部員が、部下が言うことを聞かないとお困りの親御さん、先生方、監督・コーチ、上司の皆様。ちょっとしたことで構いません。自らを今以上に成長させる何かに挑戦してみてはいかがでしょうか。自分にも相手にも、家庭や学級、会社といった組織全体にも、よい効果があるはずです。

トークショーの最後には観客ひとりひとりとハイタッチ。
技術の向上にはどこまでも真剣でありなら、指導者として選手に接する時も、ファンに接する時も気づかいを自然に表す石井さんの人柄に、色とりどりのユニフォームを身にまとった全員が満足の表情でした。
来シーズン後にもまたお話をお伺いしたいです。

『ラブすぽ』ライター:遠藤玲奈
池田高校のやまびこ打線全盛期に徳島に生まれる。慶應義塾大学法学部卒業、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。選手としての経験はないが、独自の方法で野球の奥深さを追究する。特に気になるポジションは捕手。フルマラソンの自己ベストは3時間31分。