バレーボール・Vリーグに所属するFC東京バレーボールチームは、21年12月8日、22年春の全日本大会をもっての活動休止を発表した。運営企業の東京フットボールクラブは先日、ゲーム大手のミクシィが大株主となることを発表したばかり。サッカーとバレー、明暗が別れた背景とは何だったのか。(取材・文・写真=大塚淳史)
運営法人はサッカー・FC東京と同じ
FC東京バレーボールチームは12月8日、来春の第70回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会を持って活動休止することを発表した。Vリーグ機構の國分裕之会長は「今後は、希望する選手・スタッフが継続してバレーボールを続けられる方法をFC東京とともに模索してまいりたい」とコメントを発表した。
FC東京バレーボールチームは1948年に東京ガスバレーボール部として始まり、2003年から現在の名前で活動している。2009/10年シーズンからVリーグのトップリーグ(現・V1)に所属している。FC東京バレーボールチームの運営母体である東京フットボールクラブの筆頭株主が、東京ガスグループからミクシィに変わることによるものと見られる
東京フットボールクラブ(以下、FC東京)は、東京ガスがJリーグ入りする際に立ち上がった法人で、東京ガスやそのグループ会社を中心に商社や銀行など300を超える株主から成り立つ。FC東京バレーボールチームのファン、サポーターにはあまり知られていないかもしれないが、バレーボールチームの運営も同法人が担っていた。
今回、人気スマホゲーム「モンスターストライク」で知られる「ミクシィ(mixi)」が、FC東京から第三者割当増資で51.3%の株を所有することで筆頭株主となることが決まった。ミクシィは2018年からクラブスポンサーに加わり株主にも入っていた。主にJリーグの試合などでコラボイベントを開催していた。
正式な承認は、12月10日の臨時株主総会の予定だ。11月22日の発表の際に、FC東京は「コロナ禍による(Jリーグ公式戦など)入場料収入などの大幅減収」を理由に上げていた。
バレーボールチームに走った「激震」
70年を超えるバレーチームに激震が走った。現在4勝10敗の10チーム中8位ではあるが、12月4日のリーグ戦では首位に立っていた堺ブレイザーズを3−1で破るなど、例年にはない強さも見せていたところだった。一方で選手たちは難しい立場の中で戦っていた。
まず、10月中旬にスポーツ紙からミクシィによるFC東京の経営権取得が報道されたが、当時の報道等はサッカーに関するものが中心で、バレーがどこまで影響するのかわからない状況だった。ただ、11月22日に正式に発表されても、現場のスタッフや選手たちに説明がなく、いよいよ不安が広がりつつあった。
報道が出た直後にあった11月27の東レアローズとのリーグ戦後、真保綱一郎監督に報道について聞くと「正直影響はあります。特に説明がないですし、選手たちは不安を感じているようです」と話していた。12月4日の堺ブレイザーズ戦後には、栗山英之キャプテンは「(説明は)特に聞いていない。僕たちは試合に向けて頑張っていくだけです」と話していた。
バレーは東京ガスグループ社員、体育館も東京ガス所有
JリーグのFC東京が存続する中で、バレーボールチームが活動休止となる背景には、バレーボールチームの活動が、東京ガスに依存していることもある。
サッカーの選手、監督スタッフはプロ契約だが、バレーボールの選手の大半は東京ガスのグループ会社で働きながら活動をしている。また、バレーボールチームのスタッフも大半が東京ガスからの出向で、江東区にある練習拠点の体育館は東京ガス所有のものだ。
また、実はFC東京バレーボールチームの運営費の一部は、FC東京のサッカーチームがJリーグから地域振興やホームタウン活動を行う際に助成を受ける「Jリーグ地域スポーツ振興活動」から毎年数十万円の助成を受けている。バレーボールチーム側は単体での独立採算ではなく、決して潤沢でない運営資金で活動を行っている状況だった。
報道が出てから「活動休止」の発表までに時間がかかり、バレーボールチームの選手・監督やスタッフ達に説明がされなかったのは、ミクシィ側とFC東京側が直前まで交渉していたのではないかと推察される。
ミクシィは千葉ジェッツも買収
ミクシィがスポーツチームを買収したケースでは、バスケットボールBリーグの「千葉ジェッツ」がある。現Bリーグチェアマンである島田慎二氏が当時会長のクラブ運営法人をミクシィが2019年4月に傘下に収めた。
ただ、こちらは正式買収となる前に報道が出た時点で、当時の島田会長や米盛勇哉社長は社員やスタッフ達に「こういう報道は出ているけど、雇用とかは大丈夫だから安心してほしい」と説明していたという。また、選手はプロ契約であり、練習場所も当時は千葉県船橋市が所有する船橋アリーナを活用していたこともあって、運営母体が変わることによる影響はほぼなかった。
一方で、FC東京バレーボールチームの場合は、ミクシィ側がチームを引き継ぐとなる際の、選手の雇用や、練習場所の確保など難しさがあったと思われる。
活動休止の前まで記者は、危うい状況であることは理解していたが、ミクシィが持つBリーグを通じたアリーナスポーツへの知見や経験が、FC東京バレーボールチームに活かされるのではとわずかに期待していた。また、FC東京バレーボールチームは、Vリーグでは珍しいサポーターたちによる熱い応援コールがあり、ホームゲームは他のVリーグチームにはない独特な雰囲気を作り出して、観衆を楽しませていた。
それだけにFC東京のようなチームがVリーグから消えていくのは、非常に残念に思う。プレーの継続を望む選手たちには、なんとか次のプレーの場が見つけられるよう、Vリーグは積極的に支援してほしい。
執筆:大塚 淳史
報知新聞社『スポーツ報知』にて運動部で高校野球、Jリーグ、大学スポーツ、文化社会部で芸能、事件などを担当した後、中国・上海で5年間在住。現地の日本語フリーペーパー、中国メディアのオンライン日本語版や電子雑誌、日本の繊維業界紙上海支局で勤務の後、帰国。日刊工業新聞を経て、2016年からフリーランスライターとして活動。週刊朝日、AERA dot.、Bussiness Insiderなどでも執筆している。
初出=「HALF TIMEマガジン」21年12月9日掲載(数字や日程は初出時のもの)
スポーツビジネス専門メディア「HALF TIMEマガジン」では、スポーツのビジネス・社会活動に関する独自のインタビュー、国内外の最新ニュース、識者のコラムをお届けしています。
公開日:2022.01.21
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