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「ガバナンスと持続性で世界最高峰リーグに」葦原一正代表理事が語る、日本ハンドボールリーグの挑戦

日本ハンドボールリーグ(JHL)の代表理事に、元Bリーグ常務理事・事務局長の葦原一正氏が就任した。葦原氏はプロ野球の2球団でスポーツビジネスのキャリアを積み、2015年からバスケットボールBリーグの初代事務局長を務めた。その後はスポーツビジネスのコンサルタントとして活動していたが、ハンドボール界から請われる形でJHLの代表理事に。リーグ活性化の旗振り役を託された葦原氏に、現状と展望を伺った。(取材・文=小林謙一)

リーグで最も重要なのは「ガバナンス」

葦原一正氏がJHL代表理事に着任したのはこの4月1日。招聘された背景には、JHLが法人化するという事情があった。ここで少し整理しておくと、ハンドボールという競技を国内で統括するのが日本ハンドボール協会(JHA)で、そのトップカテゴリーとして日本ハンドボールリーグ(JHL)が組織されている。これはサッカーやバスケットボールなども同じで、協会とリーグがそれぞれ独立した組織になっている。

野球やバスケットボールといった競技の運営に関しては実績を持つ葦原氏だが、ハンドボールについては“ほぼ素人”だという。ハンドボールのどこに魅力を感じて、リーグの代表理事のオファーを受けることにしたのか?そして、まだ日本ではメジャースポーツとは言えないハンドボールにどんな未来を描いているのか?

葦原氏は次のように語る。
「ハンドボールは、フィジカルコンタクトが激しい競技で、空中の格闘技と呼ばれることもあります。ヨーロッパではプロリーグもあり、“観て面白い”スポーツなんです。アリーナスポーツという点もビジネスの成功にはプラスに働きます。スタジアムと違ってアリーナは100~150億円程度で作れますし、街の中心部に作れば、その地域のスポーツ環境を変えていくこともできます。

サッカーもバスケも、かつてはマイナースポーツでしたよね。国内リーグに大勢の観客が集まることもなかったし、日本代表戦だからといってメディアに大きく扱われることもありませんでした。それが、今のように注目されるようになったのは、きちんとビジネスを回していった結果なんです。ハンドボールで成功すれば、多くの競技団体への刺激にもなるかと思います」

では、ハンドボールリーグをビジネスとして成立させるために、何を重要視しているのか。

「リーグを法人化するとなるプロ化して収益化を思い描く人も多いかもしれませんが、最も大事なのはガバナンスです。リーグという組織の意思決定ルールやリーグの制度設計をしっかりしておくのが先決で、収益化というのはその後に続くものです。リーグは協会から独立した組織として法人化することで、意思決定のプロセスが明確になり、そのスピードも早くなります。また、お金の流れも明らかになり、透明性の高い運営ができるようになります」

「サステナブルかどうか」 対話を繰り返す

着任後、葦原氏はとにかく現状把握に取り組んでいるという。

「全国に男女合わせて20のチームがあるんですが、とにかくヒアリングと対話から始めています。チームの事情もそれぞれで、実業団もあればクラブチームもあります。私は、現在のところプロ化すべきか否かはまだ見えきれていないですが、どんな形にせよそれがサステナブルかどうかは極めて重要です。チームが持続可能な組織かどうか、これが大切なんです。

どのチームから話を聞いても、ハンドボールに対する愛を感じますね。『今のままではいけない』という問題意識もあります。ただ、それを解決していく方法がわからないという状態。そのあたりをクリアにしていきたいと考えています」

聞き取りだけでなく、「対話」であることも重要だ。ここに葦原氏の役割がある。

「たとえば『リーグとして何を最も大事にするか?」と問いかけると、多くは『ファンのため』という答えが返ってきます。そんなときには、『それは、今のファン?それとも将来のファン?」とさらに深堀りしていきます。今のファンのためにすべきことと、将来のファンのためにすることは違ってくるからです。こうした対話を繰り返していくことで、問題の本質が浮き彫りになりますし、お互いの理解も深まっていきます」

過去には、選手にはほとんど情報が与えられずに、運営側の事情のみでリーグが運営されるという競技もあったが、葦原氏は関係者の知識や情報を共有し、オープンにすることを重視している。

「しっかりと聞き、しっかりと伝え、しっかりと議論したい。その上で、どこかのタイミングでリーグとして答えを出していきます。ヒアリングは丁寧にしますが、全員が100%満足する提案はできないことは、理解してもらわないといけませんし、今回のチーム訪問でもお伝えさせて頂いています。必ずしもチーム運営側と選手でも考え方は同じではないでしょうし、実業団とクラブチームでも異なってくるでしょう。それはある意味当たり前のことなんです」

JHLを世界最高峰リーグに

葦原氏は、リーグの責任者を外部から招聘するという決定について、自ら変わらなくてはならないというハンドボール協会の意志を感じ取ったという。

「私だけが頑張っても変わらないんですよね。チームも選手も変わらなくてはなりません。Bリーグの経験からすると、リーグに関する意見はチームからいろいろとあるでしょうが、徐々にまとまっていくと思います。リーグは上からの力でなんとかしようとしてはダメで、チームとは正面を向き合って対応しなくては課題は解決できません。ガバナンスや制度設計は厳しく、コミュニケーションは柔らかくですかね。

チームがサステナブルになるには、きちんとお金が回っている必要があります。現在のB2リーグ(バスケットボール2部リーグ)の1チームあたりの事業規模が3億円程度で、ハンドボールの現在の潜在市場規模はそのくらいと捉えています。今後のチームの皆さんと意見を交わしながら定めていきますが、私としては、まずはB2の規模感を目指すことが短期的に1つの目標だと思います。現在の各チームがかけているお金を考えれば、ここまで到達できればサステナブルな環境が構築されていきます」

まだ走り出したばかりのリーグ改革だが、長期的な視点ではハンドボールリーグをどのようにしていきたいと考えているのだろうか?

「JHLを世界最高峰のリーグにしたいと思っています。というと、とてつもなく大きな夢のように聞こえるかもしれませんが、実現性がないことではないんです。

バスケットボールのトップはアメリカのNBAですが、あまりに市場規模が違いすぎてBリーグがそれを超えるのは極めて難しい。野球やサッカーも同じで、メジャーリーグや欧州サッカーを日本が抜くことは現状のリーグ構造を続けているうちは考えにくいわけです。でも、ハンドボールは、フランスやドイツのリーグを抜いて世界1位になれる可能性はゼロではありません。世界最高峰リーグとなれば、世界中から優秀な選手が集まってきてさらに人気が高まり、ビジネスも活性化します」

リーグを成功させるために必要なこと

置かれている立場や環境によって様々な考えが存在するということを葦原氏は認めているが、それらをまとめて1つの方向に引っ張っていくためには、どのような手法を取っていくのだろうか。

「それは言ったもの勝ちですね(笑)。まずはトップが、何をいつまでに成し遂げるのかを宣言しないと何も動き出しません。目指す高さとそれを実現させるまでの時間によって、やるべきことが変わってきます。最初は、それをはっきりと認識してもらうことから始めます。目線の高さは、何かを成し遂げるためには重要ですから。」

「私の任期はまず2年です。大きなものを積み上げられるように、土台をきっちり作ります。2年後、私を再任するかどうかはチームの方々が握っています。どこかでリーグ側は強いスタンスを取るかもしれない。一方それがどうしても不満ならチーム側は人事権を持っているので対応できる。このようなある意味ドライな関係はガバナンスの基本ですし、緊張感を持って、取り組んでいきたいと思います」

ハンドボールリーグの改革に自信を見せる葦原氏。その背景には、競技は違えど、適切な施策を行っていけば成功に導けると確信している様子が伺える。問題を言語化して意識させ、正しくお金を回し、持続可能な組織を運営していく。

多くの人にハンドボールの魅力を届け、事業がサステナブルになれば、選手や関係者にもきちんとした待遇を提供できるようになる。同氏は求められるスポーツビジネス人材についても言及した。

「人材は育成していかなくてはいけないと考えています。スポーツビジネスの現場では、とかく『好きだから』といって関わろうとする人がいますが、私にとってはその人が競技を趣味として好きかは興味なく、しっかりビジネスとして捉える人材を求めています。

もちろん愛を持っているというのは大切なことですが、やりたいことよりできること、できることよりすべきことを、自分なりに表現できる若い人と働いていきたい。自律的に、日々考え抜いて行動できる人に、変革への道をぜひ一緒に歩んでもらいたいですね」

◇葦原一正(あしはら・かずまさ)
スポーツビジネスコンサルティングファームの株式会社ZERO-ONE代表取締役。2021年4月より一般社団法人日本ハンドボールリーグ初代代表理事。これまで横浜DeNAベイスターズ社長室長、B.LEAGUE初代事務局長等13年にわたりスポーツビジネス界に従事。著書に『稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである』、また新著に『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』。

聞き手:小林 謙一
企画制作プロデューサー・編集者・ライター。企画の立案から実制作のプロデュース、紙媒体の編集、Webメディアでのライティングなどを主に活動。「面白くて役に立つ」をモットーに制作を手がける。

初出=「HALF TIMEマガジン」
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