SPORTS COLUMN
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Jクラブの「地元ファン」をどのように定量化して捉えるか?【データで語ろう#1】

「データドリブン」な企業経営はプロスポーツクラブでも例外ではない。スポーツのビジネス化を先駆けてきたJリーグは、百年構想を掲げて地域密着で長きにわたり存続していくことが求められるが、その基盤になるのは「地域ファン」だ。スポーツ領域でリサーチ・コンサルティングを手がけるマーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクターの高橋隼人氏が、調査プロジェクトとその結果をもとに「地域ファンの育成」を解説する。(文=高橋隼人)

スポーツは「寂しい地方」を変えられるか

Jリーグチームのファン構造を明らかにしたい――。こう考えたのは、私の実体験がきっかけです。

もう5年以上も前のことですが、サーフィンをするため国内のとある地方を訪れた時、地域で一番栄えている街のスーパーに入るとまず目に飛び込んできたのは老人用の杖やオムツ。店内は広くチラホラと買い物客がいるのですが、売り場のBGMが威勢よく響くばかり。休日の昼間だというのに、子どもや若者の姿はほとんど見当たらず、駐車場には自動車がまばらに停まっていました。

私の住んでいる千葉県松戸市も決して都会と言える街ではないのですが、それでも子どもや若者が多く、休日には子供達が元気にスポーツをしたり、家族で和気あいあいとショッピングやレジャーを楽しむことがごく普通に行われています。しかし、地方ではそれが当たり前ではないのだと初めて気づいたのです。

「地方の過疎化」は散々ニュースでも耳にしていましたが、その実態を目の当たりに。それからというもの、あの「寂しい地方」の光景が忘れられず、「子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで一緒になって盛り上がることってなんだろう。日本の様々な地域が盛り上がるために自分は何ができるだろう」と考えるようになったのです。

地域密着を掲げるJリーグ

話を戻すと、Jリーグは発足当初から「100年構想」を掲げて、「スポーツで、もっと、幸せな国へ。」というスローガンのもと各チームが地域に根差し、自チームだけでなく、またサッカーという競技だけでもなく地域の発展を目指しています。

そのような考えに共感し、マーケティングという側面から何か関わることができないかと思い、昨年「Jクラブ スポンサーマッチングプロジェクト」に応募。多数のクラブから問い合わせを頂き、マーケティングサプライヤーとして、今回の調査プロジェクトがスタートしました。

Jリーグは、「サッカー」という魅力溢れるコンテンツを提供することで、そこにファンや地域住民が集まり、様々な可能性を見出した企業がスポンサーとなり新しいビジネスが生まれていくという、クラブを中心とした一つの「コミュニティ経済圏」の創出に取り組んでいます。

もちろんJリーグに限らず、日本プロ野球、Bリーグのようなプロスポーツ全般に言えますが、この「コミュニティ経済圏」を取り巻く構図が、最初に述べた地域の発展の理想とすべき姿ではないかと考えています。

プロスポーツクラブに話を移すと、このビジネスはスポンサー、チケット、放映権、グッズが4大収入源と言われます。上図のように、Jクラブの収入の大部分を占めるのもスポンサー収入で、J1からJ3の合算で49%にものぼります。ただし、スポンサーが付くのはあくまでもクラブを中心にファンが集まるからであり、ファンの力こそが「コミュニティ経済圏」の源になります。

そのため、ファンの育成がどのプロスポーツクラブのビジネスにとっても大きなカギとなるでしょう。そして、ファン調査はその現状を把握する第一歩なのです。

クラブのファンを構造化して捉えるには

ファンの育成を考えるために、まずは現在の「ファンの構造」を考える必要があります。ピラミッドの形で例えると分かりやすく、ロイヤルファンである「ファンクラブ会員」が最上位に存在し、続いて試合を観戦したことのある「試合観戦経験者」、チームは知っているが試合を観戦したことのない「試合観戦未経験者」、一番下にそもそもチームを知らない「チーム非認知者」という構図になります。

さらに、下図のように、「ファンクラブ会員」や「試合観戦経験者」は、「継続的に試合を観戦している層」と「観戦を中止した、または頻度が減少している層」に分類できます。また、「試合観戦未経験者」を分解すると、試合観戦への興味がある「試合観戦興味層」と、そもそも興味のない「試合観戦非興味層」に分類することができます。これが今回の調査分析のベースにもなっていきます。

このようにファンの構造を整理して、それぞれの層が何を考えているかを把握することで、ファン育成に向けたヒントが得られます。

ファンの構造を明らかにするアプローチ

今回はJ3の福島ユナイテッドFCに協力いただき、福島県在住の方々を対象とした意識調査を実施しました。調査は、次の3点を明らかにすることを主な目的にしています。

①福島ユナイテッドのファン構造はどのようになっているのか?
②観戦意向を上げる要素は何か?
③ポテンシャル層が何を期待しているのか?

②は継続して観戦している層と、観戦頻度が減少あるいは観戦を中止した層を比較し、観戦のきっかけや観戦意識にどのような違いがあるのかを見ていきます。また、③のポテンシャル層とは観戦経験はないものの今後の観戦意向がある人たちで、ここにインサイトと伸びしろがあると考えます。

さらに、福島ユナイテッドでは「農業部」という地域の農作業と農作物の販売を支援する取り組みを行っています。これは、東日本大震災や原発事故の風評被害などに苦しむ福島県の農業を支援するために2014年から展開する活動で、クラブの選手・スタッフが地域の農家と協力して農作業や農作物の販売を行うものです。こういった地域に根差した社会活動がどの程度浸透し、どう評価されているかを把握することも、地方クラブの今後についてヒントが得られるでしょう。

気になる調査結果は次回となりますが、まずは地域ファンの実態を捉えるためにファンをピラミッド型に構造化して把握する、そしてそれぞれの意識や行動を探ることで、クラブの課題の発見や施策の効果検証などに役立てられるということを覚えていただくことが、「ファン育成」の第一歩と言っても過言ではありません。

記事:高橋 隼人
株式会社マーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクター。1976年生まれ。明治大学商学部卒業。JMRAカンファレンス委員。2002年株式会社マーケティングアンドアソシェイツ入社。2015年より現職。学生時代より同社にて街頭調査・会場調査など数々の現場を経験、生活者のリアルな声に触れたことをきっかけに本格的にリサーチャーとなる。入社後は20年にわたり、消費財を中心とした定量・定性調査の設計から分析まで一気通貫して対応。近年はプロスポーツビジネスの経営戦略をデータで支えるマーケティングサプライヤーとしての活動に注力している。スポーツが大好きな三児の父。

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