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J福島ユナイテッドの調査から考える、ファンの「構造化」【データで語ろう#2】

「データドリブン」な企業経営はプロスポーツクラブでも例外ではない。スポーツのビジネス化を先駆けてきたJリーグは、百年構想を掲げて地域密着で長きにわたり存続していくことが求められるが、その基盤になるのは「地域ファン」だ。スポーツ領域でリサーチ・コンサルティングを手がけるマーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクターの高橋隼人氏が、調査プロジェクトとその結果をもとに「地域ファンの育成」を解説する。(文=高橋隼人)

ファンのセグメントは?「構造」を明らかにする

前回の通り、福島ユナイテッドFCのファン調査の目的は、ファンを構造化し、各ターゲットの意識や実態を把握することで、今後のファン育成に向けたヒントを得ることです。第二回の今回は、福島ユナイテッドのファン構造と、ファン度や観戦実態について説明します。

まず初めに調査概要はこちら。調査手法はWebアンケート、対象は福島県在住の 20歳~79歳の男女個人で、アンケートモニターパネルの登録者。サンプル数はスクリーニング調査で1,415サンプル、本調査では419サンプル。調査実施日は、2020年10月27日から31日でした。

調査結果をもとに、さっそく福島ユナイテッドのファン構造を見ていきましょう。

福島県在住の20代~70代のうち、5.1%がホームスタジアムでの観戦経験があると回答しています。そのうち、観戦頻度が増加または変化がない――つまり継続して観戦している層が2.8%、一方、観戦頻度が低下あるいは観戦を中止した層が2.3%存在します。

次に、観戦経験は無いが今後観戦意向がある層は3.5%。逆にチームを認知しているものの観戦意向が無い層が46.5%、そして、そもそも福島ユナイテッドを知らないチーム非認知層が44.8%という結果でした。

この構造をみると、次の課題が考えられそうです。

・福島ユナイテッドを知らない人が県内に44.8%も存在する

・福島ユナイテッドを知っていても、観戦経験も観戦意向もない人が46.5%も存在する

ファネル分析で「ボトルネック」を特定

次に、ファネル分析を用いると、クラブを認知する→興味を持つ→観戦するというステップにおいて、どこに課題があるかが明確になります。

分析をみると、チームの認知率は55.2%ですが、認知→興味への歩留まり率が21.6%。つまり知っている人の2割しか関心を持つに至っていません。興味→観戦は同42.9%なので、関心さえ持ってもらえれば、4割の人は観戦するということです。

つまり、認知→興味の歩留まり率が低いことが課題のひとつとして挙げられます。名前を知ってもらってから、いかに興味を持ってもらうかがクラブにとって大きな課題です。興味を持ってもらうことができれば、4割以上がホームゲーム観戦に進むという結果が得られているので、何とかして興味を持ってもらうことが観客動員アップのマーケティング目標になるでしょう。

ファン度を計測「あなたはクラブのファンですか?」

「あなたはクラブのファンですか?」という質問によって、ファン度を測ることができます。「大ファンである」「ファンである」と答えた人をファン、「(ファンではないが)やや好きである」「好きでも嫌いでもない」「好きでない」と答えた方は非ファンと、今回は定義しています。

調査では、福島ユナイテッドの認知者(全体の55.2%)に対して、「あなたは、福島ユナイテッドのファンですか?」という質問を投げかけました。これを例のピラミッドをもとに、観戦経験者(全体の5.1%)を見ていくと、観戦頻度が増加または変化がない層ではファンが83.1%と非常に高い割合を占めることが判明しました。それに対し、観戦頻度減少または中止層はファンが16.6%でした。

よって、観戦を継続しているのはチームのファン、観戦をしなくなったのは非ファンという仮説が立てられます。当たり前のように聞こえますが、このように改めて現状を把握できれば、いかに非ファンをファンにするのか、その要因は何かという「打ち手」を考えることが可能になります。

調査分析では推計人口も割り出しています。観戦経験があり頻度が増加あるいは変化のない層が4万人、観戦経験があり頻度が下がったあるいは中止した層が3万2000人、観戦経験はないが意向はある層が5万人、観戦経験も観戦意向もない層が66万人、チームをそもそも知らない非認知層が63.5万人。こうして数字で見ると、より具体的にイメージできるのではないのでしょうか?

また、上記の観戦経験者に年間の観戦回数を聞いたところ、2019年シーズンでは「9~15回」、2020年シーズンはこの調査実施時はシーズン途中だったため試合数が少ないですが「3~8回」との回答が得られました。

つまり、現状のファンの構造をみると、コアなファンが足しげくスタジアムに応援に駆けつけてくれていることで、チームが支えられているという状況がわかります。

調査分析で分かったこと

現状を整理すると、福島県在住者における「観戦経験者」の構成比は小さいが(全体の5.1%)、中でも一部のコアなファンが足しげく応援に駆けつけてくれることが、チームの支えとなっているようです。

課題となるのは間口の広さです。どのようにしてファン層を増やしていくかが今後のカギとなります。福島県内の方を対象とした調査で、認知が55.2%というのは少し気になります。逆に言えば、まだ44.8%の非認知層については、まだまだマーケティングの余地があるということですね。

ファネル分析から見える課題は、認知→興味の歩留まり率(約2割)を高めることです。興味→観戦は4割が進むので、まずはクラブの名前を知っている人たちが、どのようにクラブへの興味を高めていくかを分析し、施策に落とし込んでいくことが重要になってきます。

次回は、福島ユナイテッドの魅力要素は何か?どのようなきっかけで観戦するようになったのか?といった問いの結果を分析することで、名前を知っているという「認知」から、クラブへの「関心」へと関心度を高めるヒントを得ていきます。

記事:高橋 隼人
株式会社マーケティングアンドアソシェイツ 取締役シニアリサーチディレクター。1976年生まれ。明治大学商学部卒業。JMRAカンファレンス委員。2002年株式会社マーケティングアンドアソシェイツ入社。2015年より現職。学生時代より同社にて街頭調査・会場調査など数々の現場を経験、生活者のリアルな声に触れたことをきっかけに本格的にリサーチャーとなる。入社後は20年にわたり、消費財を中心とした定量・定性調査の設計から分析まで一気通貫して対応。近年はプロスポーツビジネスの経営戦略をデータで支えるマーケティングサプライヤーとしての活動に注力している。スポーツが大好きな三児の父。

初出=「HALF TIMEマガジン」
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