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【WEリーグ岡島チェアに聞く】ついに開幕する日本初の女子プロサッカーリーグ。ファン獲得のカギは「カッコいい女性」

9月12日、WEリーグがいよいよ開幕。日本初の女子プロサッカーリーグはファン獲得を意欲的に進めながら、多様性の確保や女性の社会進出などの独自の価値を提示。スポンサー企業も続々と決定している。WEリーグは何を目指し、どのようなビジネスモデルと社会活動に注力していくのか。岡島喜久子チェアが語り尽くした。前編(取材・文=田邊雅之)

女子サッカーの最高峰リーグとして、観客数を上げていく

――オリンピックも終わり、いよいよWEリーグの開幕も近づいてきました。今の率直なお気持ちからお聞かせください。

コロナウイルスの感染状況が、さらに悪化しないことを望みます。9月12日にどの程度観客を入れられるかは、ちょっと読めないところがありますが、準備は着々と進んできています。選手も期待を寄せていますから、日本の女子サッカーに対する注目がさらに高まってほしいと期待しています。

――チェアご自身、日本初の女性クラブチームとであるFCジンナンでプレーされるなど、日本女子サッカー界のパイオニアとして道を拓かれてきました。やはり当時と今日を比べると隔世の感がある、ずいぶん長い過程があったと感じられますか?

私は30年アメリカに住んでいたので、必ずしも日本女子サッカーにずっと関わっていたわけではないんですね。1996年のアトランタ五輪の際には現地で少しお手伝いをしましたが、むしろ海外から見守っていた感じなんです。

ただし私たちがプレーしていた1970年代に比べれば、やはりレベルは全く違う。キック力やテクニックなど、技術的には非常に上がっていると思います。ただし、あまり変わっていないのは観客数で。

例えば30年ほど前の1990年代半ばには、Lリーグという組織が存在していました。当時はバブルの頃だったので多くの企業がスポンサーにつきましたし、ましてや世界的に見ても女子のプロリーグがなかったので、各国から一流選手が集まってきた。でもLリーグの頃でさえ、平均観客数は1000人に満たなかったんです。

日本の女子サッカーは、2011年のW杯で「なでしこジャパン」が優勝を遂げたのをきっかけに盛り上がりましたけれども、なでしこリーグの注目度も時間の経過とともに落ちていき、2019年の段階では平均観客数は1300人になっていた。ですからWEリーグとしては、やはり観客数を上げていくことが最も重要な課題になると思います。

――2011年のW杯優勝は日本サッカー界全体にとって初めての快挙でした。また東日本大震災によって日本全体がダメージを受けていただけに、多くの人に希望と元気を与え、女子サッカーにもスポットライトを当てました。当然、ライトなファン層や新しいファン層も一気に増えましたが、結果的には人気が定着せず、いわゆる「にわかファン」が「にわか」のままで終わってしまっている。これは、どこに原因があったのでしょうか?

まず、期待値が高くなりすぎた部分はあったと思います。なでしこジャパンは2011年のW杯で優勝しましたが、翌年のロンドン五輪では銀メダルでしたし、2015年のW杯でも準優勝でした。もちろん世界2位というのも立派な成績ですが、世間一般の方々はやはり世界に頂点に立つと優勝を期待するようになる。2位でもがっかりしてしまったりするんです。

また、なでしこリーグとして観客を動員する、あるいはにわかファンを繋ぎ止めておくための施策が、あまりなかったのではないかと推察します。私はその頃日本にいなかったので詳しい事情まではわかりませんし、そもそも多くの方は、一過性のブームが去ってしまえば、違うスポーツに興味を示す可能性がある。そういう方たちを繋ぎ止めるのは、どんなスポーツでも難しいとは思います。WEリーグでは、その点を理解しながらプロモーション活動に尽力していきます。

「休日を楽しめる」コンテンツに

大宮アルディージャVENTUSを訪問する岡島チェア(右)。画像提供=WEリーグ

――WEリーグでは、ライトなファンや新しいファンを開拓していくために、どのような方策を採られるご予定ですか? 集客の部分は、従来のなでしこリーグとWEリーグを分ける最大の要素になるかと思います。

むろんサッカーファンは増やしていかなければなりませんが、サッカーだけを目的にスタジアムに来てくださる方は、どうしても限られてしまうと思うんです。特に今は1300人だった平均観客数を倍以上にしようとしているわけですが、そうするとスタジアムを「休日を楽しんでもらう場所」という形にしていく必要がある。そこで鍵を握るのはWEリーグの試合を「コンテンツ」として捉え、スタジアムの内外におけるコンテンツを、いかに充実させていくかという視点だと思います。

――具体的には、どのようなアプローチを採られる予定ですか?

(イベントなどの)エンターテインメントでも、グッズの開発や販売でも、あるいは「食」でもいいと思います。

食べ物というのは、誰にでも興味がある分野じゃないですか。みんな美味しいものを食べたい、珍しいものを食べてみたいという欲求はありますし、WEリーグのスタジアムに行けば、ちょっと変わったものが食べられる、毎週違うものを味わえるという状況を作っていくようにすれば、一つのコンテンツとして人は集めやすくなると思うんです。

もちろん、これを実現するためには努力もしなければなりませんが、フードトラック(屋台バス)などをうまく活用していけば実現できる。食のコンテンツを充実させる試みは、是非、継続的に各クラブに行ってもらいたいと思います。

――川崎フロンターレなどは、いわゆる「スタジアムグルメ」をはじめとして、ファンエンゲージメントの分野で斬新な企画を打ち出して高い評価を得ています。そういう事例も参考にされたりしているのでしょうか?

川崎フロンターレは非常にいいお手本ですね。私はフロンターレで様々なイベントなどを企画された鈴木順さんにいろいろお話を伺うんですが、ここまでやるんだ、すごいなといつも感心しますね。

個人的にびっくりしたのは、少女漫画の『なかよし』とコラボしたレディース・デイで。まず中村憲剛選手が壁ドンのようなポーズをしている写真を撮影してパネルにする。そのパネルを背景に、今度は女性のファンが記念撮影をしてもらうことで、女性ファンが主役になった『なかよし』の表紙をその場で作って渡すことができるんですね。こういう企画力はすごいなと思います。

――サッカーに直接関係しない部分でも、間口を広げていくと。

ええ。一方、エンターテイメントに関しては、もちろん試合そのもののレベルやおもしろさを上げていくことは基本になります。ただし、ルールをやさしく解説する努力もしていかなければならない。やはり試合で何が起きているのかがわからない状態が続くと、ライトなファンは離れていってしまうと思うんです。

だから今、WEリーグでは試合前に説明をしたり、ルール解説の動画を見てもらえるようにしたり、テレビの画面でルールを表示できるような仕組みを考えています。他ではスタジアムのミニFMを活用して、試合前やハーフタイム、後半などに芸人さんなどに実況放送をしてもらう。これはお硬い解説ではなく、楽しい掛け合いなどでもいいのですが、そういうこともできないかなと考えています。

――その種の試みは、サンウルブズがスーパーラグビーに参戦した際にも行われました。例えばラグビー協会など、他の競技団体の方ともいろいろなアイデア交換をされているのでしょうか。

そこはもう少し力を入れていく予定です。ラグビー協会には女性の理事が5名いらっしゃったじゃないですか。実はあのうちの2名、東京オリンピック・パラリンピック選手村の副村長になられた斎木尚子さんと、最初に女性理事になられた稲沢裕子さんは高校の同級生なんです。2人とはオンラインで話をしていますが、ファン施策のところまでは相談していなかったので、意見を聞いてみようと思っています。

重要になる、地方自治体との連携

――川崎フロンターレなどは、地元のファンを開拓するために教育委員会と連携して、小学校の教科書に選手が登場するような仕掛けも作りました。地方自治体の連携も重要になってきますね。

ええ。実際に自治体の首長や県知事さんにお話を伺うときには、いろいろなお願いをしているんです。消防車や白バイ、パトカーをスタジアムの外に展示してほしいというのもその一つです。白バイやパトカーは、警察署の管轄になるので難しい部分もありますが、こういう特殊車両は子供にすごく人気があるじゃないですか。

従来、女子サッカーの試合に来るファンの方は40代から60代の男性が中心だったんですね。私たちはコロナウイルスが収束した後、平均観客数を5000人まで上げていくことを目指していますが、それを実現するには子連れのファミリーや若い女性層を獲得していかなければならない。そのためにも、様々な仕掛けを、できるだけ作っていきたいんです。

――家族連れや女性ファンを増やしていくというのは、アメリカのサッカー界が試みてきたアプローチを連想させます。

アメリカは本当にそうです。たしかに男子サッカーのMLSは男性ファンの割合が多いし、ヒスパニック系やアラブ系の方などもかなり試合を観に来ます。

でも女子サッカーは、女性やファミリー層が非常に多い。代表の試合でもNWSL(女子プロリーグ)の試合でも、みんなユニフォームを着て観にきますから。しかもNWSLの場合は、アマチュアチームのコーチが、選手たちを引きつれて観戦に来るようなスタイルも定着しているんですね。

――ファミリー層や女性を獲得することは、集客につながるだけでなく、草の根の競技人口を増やしていくことにもつながっていく。

もちろんこれは女の子だけに限りませんが、やはりもうちょっとサッカーがうまくなりたいということで、試合を観に来る子供たちもいますから。

「カッコいい女性」の姿を映し出す

――関連してですが、多くの女性ファンが女子のチームを応援に来るというのも大きな特徴の一つであるような印象を受けます。特に日本の場合は、女性ファンが男子のスポーツを応援するカルチャーはある程度定着していますが、女性が女子のスポーツを応援する習慣はあまりなかったのではないでしょうか?

そこは本当におっしゃる通りで。以前、格闘技のRIZINの大会が開催されたじゃないですか。ああいうイベントにも女性のファンがすごく多かったし、Jリーグやプロ野球でも女性ファンは結構多い。プロ野球には「カープ女子」のような熱心なファンが増えてきますから。

ただし、日本の女子サッカーのファンの場合は、男性ファンの方が圧倒的に多かった。今後は女性ファンも増やしていきたいと思っています。

――日本のスポーツ界は、もともと男性中心で動いてきました。そこの意識やイメージを変えていくことは、重要課題になっています。

ええ。でもヒントはあるんです。スポーツからは離れますが、宝塚歌劇団はほとんどが女性ファンじゃないですか。これはやはり、カッコいい女性に憧れる女性がいるということなんです。同じような建て付けは、WEリーグが女性ファンを獲得していく上でも結構、効くと思うんですね。だからWEリーグのクラブには、女子選手たちのカッコよさを出してほしいです。

書き手:田邊 雅之
学生時代から『Number』をはじめとして様々な雑誌・書籍でフリーランスライターとして活動を始めた後、2000年から同誌編集部に所属。ライター、翻訳家、編集者として多数の記事を手掛ける。W杯南アフリカ大会の後に再びフリーランスとして独立。スポーツを中心に、執筆・編集活動を行う。

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