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大谷、死球に報復 ザ・ショータイム【二宮清純コラム スポーツの嵐】

Text:二宮清純

死球の直後に2盗、3盗

「ウォーッ!」

悲鳴とともに右ヒジをおさえてうずくまった瞬間、背筋が凍りついた。

「もしや、骨折では……」

幸い、右ヒジはプロテクターで守られており大事には至らなかったが、テレビで試合を観ていた多くの日本人が青ざめたのではないか。

5月2日(現地時間)、敵地でのマリナーズ戦。エンゼルス大谷翔平はジャスタス・シェフィールドから第一打席で死球を受けた。

その影響が心配されたが、直後に2盗、3盗を決め、早くも今シーズンの盗塁を6とした。

「オレにぶつけると、こうなるぜ……」

2つの盗塁は、大谷流のクリーンな“報復”だった。

狙われたわけではあるまい。しかし、前日までにリーグトップの8ホームランをマークしていた大谷に対する警戒レベルが一段上がっていたことは間違いない。

右ヒジに死球を受けた瞬間、エンゼルス時代の長谷川滋利がマリナーズでメジャーリーグ最初のシーズンを終えたイチローに対して発したコメントを思い出した。ちなみに長谷川はオリックス時代のイチローの先輩にあたる。

「打たれてもヒット1本は1本なので怖さはなかった。彼は打とうと思えばホームラン20本を打てるのだから、もっと長打を狙えばいい。“こいつにはブツけるしかないな”と思うようなバッターになってもらいたい」

しかし、人には“役割”がある。マリナーズがイチローに求めたのはリードオフマン、すなわち出塁してホームベースに還ってくることだった。

長谷川が言うように、長打を狙えばイチローはホームラン20本どころか30本も不可能ではなかったはずだ。それが証拠に打撃練習では惚れ惚れするようなライナー性の打球をライトスタンドに放り込んでいた。

だが、長打を狙い始めると、おそらくイチローの打率は2分か3分、低下していただろう。二兎を追う者は一兎をも得ず。その意味でリードオフマンに徹したイチローの選択は正しかったように思われる。

さて大谷である。彼の場合「打たれてもヒット1本は1本」ですまない。快音を発した打球は、かなり高い確率で外野フェンスを越えていく。

死球翌日のレイズ戦には「2番・DH」で先発出場。剛腕タイラー・グラスノーからバックスクリーン越えに9号特大弾。6日のレイズ戦で10号を放ち2ケタに乗せた。ホームランキングも夢ではなくなってきた。

初出=週刊漫画ゴラク2021年5月14日発売号