2021年シーズン。リーグ優勝、日本一へ向け文字通りの死闘を繰り広げる千葉ロッテマリーンズ。その指揮官・井口資仁は、これまで監督としてチームを率いる上で、どんな思いを抱いていたのか。
開幕前、3月に上梓された書籍『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』からその一部を抜粋してお届けする。今回は「データ野球の大きな波」に関して。
2019年にチーム戦略部を新設
これは、監督に就任してから3年経った現在、実感していることだが、引退した直後に監督に就任すること……つまりブランクを空けずに現場に居続けることには、利点がもう一つある。
野球ファンの方ならご存知だと思うが、ここ数年、日本のプロ野球界にはデータ野球の大きな波が押し寄せている。データ測定機器の発達により、たとえばピッチャーの投げたボールの球速だけでなく、回転数や回転軸の方向、変化量、また打球速度や打球角度も計測できるようになった。
トラックマンという弾道測定器がマツダスタジアム以外の11球団の本拠地スタジアムに導入されており(2020年現在)、さらにいくつかの球団ではAIを駆使した映像解析装置も設置している(※マリーンズも2021シーズンから導入)。
そのデータ化の波に伴い、マリーンズでも2019年にチーム戦略部を新設。各球団によってデータ重視の度合いは違うが、全体で見れば確実に進化したデータ野球が浸透してきている。実際、マリーンズでも5~6年前と比べると、チームで扱うデータは質も量も段違いに増えた。選手たちがデータを把握するために行うミーティングのやり方も変わった。グラウンドレベルの現場では、データ化の大変革が起こっている最中なのである。
現場に居続けられた結果
もし自分がプロ野球で指導者としてのキャリアを重ねていこうとするとき、こんな変革期に何年も現場から離れてしまうのは、大きなハンデになるのではないかと感じている。
実際にデータを計測して分析するのは専門のアナリストたち――マリーンズで言えばチーム戦略室のスタッフたちだ。ただ、選手たちに技術的な指導をするコーチや監督の立場なら、最低限でもその数字の持つ意味程度は理解しておく必要があるだろう。
もちろん、評論家をしながらデータについて勉強できるし、実際に指導者の立場になってから学ぶことだって可能だ。だから進化するデータ野球に遅れをとらずについていけるかどうかは、個々の努力によるのだろう。だが、もしいつか指導者になった時、現役時代の経験だけを元に選手に指導すればいいという考え方でいたら、実際にその立場になった時に大いに苦労するのは明らかだ。
そういう意味では、データ化により野球が大きく変化していっている時期に、僕自身が現役引退後も、現場レベルに居続けられたのは良い経験だったと思っている。
ーー次回、【監督の条件.4】へ続く
出典
『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』著/井口資仁 日本文芸社刊
記事内容は21年3月の書籍出版時点のもの。
書籍情報
『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』
著者:井口資仁 日本文芸社刊
井口監督が目指す常勝チームの姿とは?
現役時代、大リーガーとしてワールドシリーズ制覇に貢献した千葉ロッテマリーンズ井口監督の改革と手腕に迫る。
ロッテは日本代表メンバーが選手にいないにも関わらず、2020年シーズン、2位を獲得した。
コロナ禍にも見舞われ、若手主体の戦いを余儀なくされた裏で、いったい井口監督は何を実行していたのか?
監督就任以来実行してきたコーチングスタッフの引き抜き、球場施設の整備・変更、練習内容の充実、選手の体調管理、フロントへの提言、ドラフトへの要望、若手の育成指導、ミーティングの進め方、試合分析などを完全網羅する。
公開日:2021.10.27