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テニス上達には予測・判断の経験値を育む「当てずっぽう」が重要な理由とは!?【新装版 勝てる!理系なテニス】

未知の問題は「予測する前」にやらない

●松尾衛/理論物理学者

「当てずっぽう」が重要です。当てずっぽうを繰り返すほど、予測や判断が磨かれるからです。直感と経験が噛み合うというのでしょうか。でも、当てずっぽうという言葉にネガティブなイメージがあるのがもったいないですね。ミスをすると怒られる、そのような心理が働くために、予測・判断の経験値を育む機会を逸しているわけですから。

当てずっぽうを試す格好の場は、テニススクールのゲーム練習でのリターンだと思います。リターンは、ただでさえ失敗することが多いので、当てずっぽうを使うには最適です。強いサービスを打つ人が相手だったら、返せないのは当たり前ですし、リターンが浮いたらバコンとボレーを打たれるのが普通だから、目いっぱい当てずっぽうを使って会心の一撃リターンを狙うのです。

そもそも、我々のようなウィークエンドプレーヤーには、ロブが上がったらチャンス、という概念は少ないかもしれません。ロブを上げても相手がミスする可能性が高いからです。実際、私がロブを上げると、だいたいミスします。ストロークに比べてスマッシュの練習時間は少ないものなので、ロブを上げた瞬間に予測・判断の前に「ミスしてくれないかな」と思っているわけです。予測とは対極にある……期待をしちゃうわけです(笑)。

あとは「ボールのキレが悪ければ、それほどケアしなくても取れる」と知っているだけでも違いますね。「コートの真ん中からストレートに大半のボールは飛んでくる」と考えながら試合をするだけでも、かなり試合結果が違ってくるのではないでしょうか。

そういえば、私が大学生のときに使った物理学の問題集に同じようなことが書かれていました。宇宙にはブラックホールがありますが、その名前をつけたのは、指導者としても優秀だったジョン・ホイーラーという物理学者です。その彼が書いた問題集に、「予想する前に解とくな」と大原則が書かれているのです。予想をする前に計算を始めるな、ということですよね。

よく受験勉強は、考える前に手を動かせといわれます。それは答えが決まっている問題だからです。でも、我々研究者は未知の問題を解かなければいけない。そういうものにどうアタックしていくか、そもそもどう手を動かしていいのかわからないわけです。なので、当てずっぽうでいいので「予測しよう」と試みるのが大切。そうしているうちに、その対象を簡略化させるとか、極端な例を考えてみるといった経験を積みながら徐々に予測が噛み合ってきて、一年に1回あるかないかの「あ、わかった!」といった発見に行き着くのです。

テニスも同じなのだ、と思いました。「予測する前に動くな」「予測する前に打つな」ということですね。そうすることで、経験と予測が噛み合ってくるのでしょう。

『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛

元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!