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ラケットを鋭く振れるジョコビッチも使う首に巻き付くフィニッシュとは!?【新装版 勝てる!理系なテニス】

ラケットの加速は体幹の回転運動から生まれる

●松尾衛/理論物理学者

もともと高校時代にテニス部に入部したのですが、周りが経験者ばかりで全然ついていけず、すぐにやめてしまった苦い経験がありました。でも、不摂生をなんとかしようとテニスに改めてチャレンジしました。初めは近所のインドアジムにテニススクールがあって、体験レッスンに参加してみました。球技は嫌いじゃなかったので、ボールを追いかければ嫌でも走るだろうから、やってみようかなと思ったのがきっかけでした。

ユーチューブなどでフェデラーやナダルのプレー映像を見ると、 体を回してボールに回転をかけて飛ばしているのが見えました。

自分は物理学者として、ひと言で伝えると「地球サイズのラケットでテニスボールを制御するような研究」をやっています。数ミリくらいの物質を回転する装置に入れて、1秒間に1万回くらい回転させるのですが、物質の中には電子があって、実はそれも回っています。電気というのは電子の電荷が集まったものですが、電子の回転=「スピン」が集まると磁気になるのです。ハードディスクのデータの読み書きにも電子のスピンを利用しています。

この電子のスピンはナノメートルの世界のテニスボールに相当していて、実験で扱うミリメートルサイズの物質がラケット。電子をテニスボールのサイズと思うとラケットが地球と同じくらいのサイズになるわけです。いわば、地球サイズの巨大ラケットをぐるぐる回しながらテニスボールの動きを自在に操ることを四六時中考えてきたのです。

そんな私がフェデラーらの映像を見たとき、閃いたのです。自分の専門分野である回転だろうと、テニスの回転だろうと、物理学としての根幹はまったく同じなのではないかと思ったわけです。大きな回転から小さな回転を生み出す。または、大きい回転で小さいものをまっすぐに飛ばす。ナノの世界で電子のスピンを制御する理論を7年前くらいにつくっていたので、テニスでも似たような手法が使えると思ったのです。

しかし、私は割と運動は好きだったのですが、いろいろ疑問がありました。例えば、スポーツテストの遠投のソフトボール投げで楽々メートル投げる人もいる中で、私は力みまくって30メートルがやっと……。同じような投げ方なのに、なぜこんなに違いがあるのかずっと謎だったのです。テニスも同じで、ジュニアからの経験者は軽々と威力あるショットを打てるのに、私は頑張っても威力が出なくて。周りからはフォームは結構きれいだと言われるのですが、なにせ威力がぜんぜん出ない。だから早々に退部しました。

肝です。私は「ボールを遠くに投げる肝」がわからなかったのです。形は真似しているけど、ボールは遠くに投げられない。これが小さい頃の悩みでした。

野球のバッティングでも、「きれいに振っている」とは言われるのです。ただ、ボールは飛んでいかない。サッカーやほかの球技でも同じでした。ピッチングでも、投げる瞬間、この瞬間にボールを最大限に加速させるという仕組みが、なにもわかっていませんでした。

テニスラケットのヘッドスピードを加速させるのは、筋力とはまったく別問題。ちゃんと加速させるためのロジックがあるわけです。私より筋肉が1・5倍ある人も、それだけで1.5倍も加速させられるわけではない、ということですね。

物理学の世界では、理論でいろいろ考えて「こうやったらうまくいくよ」と考える人と、実際に実験する人は別で、分業になっています。別分野の機械工学の人がいたりして、共同研究でやります。1秒間に何万回転させるには、どうしたらバランスを取ってきれいに回るのかというのを、チームを組んでやるのです。

それがプライベートのテニスの回転制御でも、同じような感じで研究者仲間とチームで取り組むことにしました(笑)。『チーム松尾』と称して、研究者メンバーをコートに引き連れていき、「どうやったらボールが回転して飛ぶのか?」などを一緒に研究してもらっています。

ボクシング経験者、テコンドー経験者、フェンシング経験者がいます。それぞれ自分なりに、「蹴るってどういうことか?」「打撃動作とはこういうことだ!」と、プライベートで各自が突き詰めていました︒で︑私がテニスを始めたのを知って、みんなで話し合ったのです。競技は違っても根本は一緒で、骨盤をキュッと回した力を、いかにラケットヘッドの加速やパンチの加速につなげるか。これが、命題でした。

彼らから学んだのは、相手に動作を読まれないために、地面を踏み込まずに、骨盤を鋭く回して打撃などの動作を行なうということ。体幹周りの鋭い回転運動を使って肩から先の部位を加速させるというのがとても重要ということでした。

【ポイント】角度運動保存の法則(コマ回し)では、ジョコビッチ選手も使う首に巻き付くフィニッシュを取り入れたほうが、スイングスピードも上がり、ラケットを鋭く振れる人もいる。

『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛

元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本! 

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