長谷川流パドックの見方
競馬新聞に何が書いてあるかが、だいぶわかったところで、競馬場に行ったら、まず足を運びたいのが、パドックです。パドックは“下見所”とも呼ばれ、出走する馬たちが、「今日はこんな状態でレースに出ますョ」というのを、お客さんにお披露目する場所。
出走馬たちは、レース発走時刻の 30 分前に、パドックに登場します。馬の歩き方で、馬の状態の良さを推し量る。そのために、まずは馬の走る仕組み、体の構造を知りましょう。
馬は草食動物です。天敵である肉食動物から身を守るため、首の後ろ以外、350°視野があります。お腹の中は、ほぼほぼ腸。その長さは 30 mもあると言われます。腸の中の菌の力を借りて、ゆっくり、ゆっくりと食べ物を消化、栄養分を吸収していきます。その長い腸が捻れないよう、背骨がお腹を守っています。そう、馬の背中は曲がりません。多少は動きますョ。でも、基本的に馬の背中は曲がらないのです。
猫やヒョウ、チーターなどは、背中を曲げて走りますよね。テレビなどで、背中を山のように、ぐーっとしならせて、獲物を追う姿を、スローモーションで見たことがありませんか? あれは体の伸縮で走っているのです。では、背中が曲がらない馬は何で走るかというと、前肢と後肢の可動域で走っているのです。
後ろ脚全体を“トモ脚”と言い、中でも、お尻のあたりを“トモ”と言います。ここが馬のエンジン部分。トモ脚でバーンと蹴った力を、前脚の2本が、パパンと受ける。前脚の前ひざの下に、屈腱という腱が入っています。屈腱を人間の何かで例えるとしたなら、棒高跳びの棒(バー)でしょうか。棒高跳びは、バーがしなって、スピードを高さに換えるから、人間があんなに高く跳べるわけですよね。
同様に、馬が後ろ脚で蹴った力を、前脚の屈腱がしなることで、さらに増幅させて前に進む。その際、馬は首をグイッと前に出しながら走ります。これが馬の走る仕組みです。イメージ出来ますか?そして、一完歩、一完歩、ストライドが大きいことを、「踏み込みが深い」と言います。
これが、体の柔らかさを表す、ひとつのポイントにもなるんですね。ラグビーの選手だろうが、レスリングの選手だろうが、体の大きなアスリートであっても、体が硬くて成功した例は、ほとんど聞いたことがありません。
競走馬も体が柔らかいほうがいい。もちろん踏み込みだけで、すべてがわかるわけではないのですが、ボクらがパドックを見る際の、ひとつの大切なポイントになります。
逆に、完歩の小さな馬を、「踏み込みが浅い」「硬い」と言います。
【書誌情報】
『究極の競馬ガイドブック 自分で“勝ち馬”を探せるようになる』
著者:長谷川雄啓 JRAビギナーズセミナー講師
競馬場などで行われている競馬初心者施策でビギナーセミナーの講師を務めている長谷川雄啓氏。そこで競馬初心者の人々と触れ合うことで「初心者の人が馬券を買うまでに知りたいポイント」を体得してきました。これまでの教本だと、まるで家電の説明書のように、“抜け”があったらマズいと、それはそれは細かく、ビギナーには不要な細かい情報まで書いていました。この本では、そういった内容を極力省きます。ポイントを押さえれば、細かいことは自然と覚えていくので、まずは開いた“競馬の扉”を閉じさせないよう、自力で予想を楽しめるよう導いてあげるのを目的とした本です。
公開日:2020.08.30