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バランスよく食べることの難しさ

バランスよく食べることの難しさ

アスリートの身体活動量は一般の人たちの比ではありません。とはいっても、たとえアスリートといえども、胃の中におさめられる量には限界があるもの。すなわち、食べることができる量には限界があることは前回にも述べた通りです。しかも、バランスのよい食事を必要量食べようとすると、そのハードルはさらに高くなります。なぜなら、エネルギーだけでなく、ビタミン・ミネラルなどすべての栄養素も身体活動量の増加に伴って必要十分量を補う必要があるからです。

例えば、ビタミン・ミネラルを優先的に補うことを考えて、メニューを設定しようとすると、野菜や海藻が大量に食卓に並ぶことになるでしょう。すると、前述の通り、ヒトの胃の中におさめられる量には限界があるので、野菜や海藻だけでお腹いっぱいになって、エネルギー源である糖質やタンパク質は必然的に必要量を補えなくなってしまう(=食べきれない)という事態が生じます。つまり、それはエネルギーが不十分であるという状態。だからといって、逆にエネルギーを最優先としたメニューに設定した場合には、野菜や海藻の必要量が少なくなってしまう…。まさにあちらを立てればこちらが立たず、という状態です。

では、このギャップを管理栄養上、どうやって解決するかといえば、私たち公認スポーツ栄養士は、まずエネルギーを優先せざるを得ないということを前提として考えます。なぜなら、ビタミン・ミネラルに関しては、昨今ではサプリメントがあり、親指の頭くらいの量で一食分の必要量を補うことができるから。こういったことを総合的に考え、アスリートに適切な指導をしていくのが公認スポーツ栄養士の役割です。

もちろん、理想は「食事によってバランスよく食べるが理想である」ことはいうまでもありません。しかし、繰り返し述べるように、身体活動量が多くなり過ぎた場合には、もうこれ以上量を食べきることができない。その食べきれない食事を補うためにはサプリメントが必要不可欠であるということです。そう考えると、改めてバランスよく食べることの難しさというものを理解していただけるかと思います。


アスリートにサプリメントは必要不可欠

実は、私はスポーツ栄養に取り組み始めた頃からサプリメント肯定論者でした。25年くらい前、「アスリートはサプリメントを活用しなければ、必要なエネルギーを補うことはできない」という持論を栄養関係者に話したら、「管理栄養士としてそんな発言をしていいのか!」「栄養は日々の食事できちんと補わなくていけないものだ!」と、真っ向からその論を否定されお叱りを受けたものです。

でも、現場では当時から皆、当たり前のようにそれを飲んでいた。この事実はどう受け止めればいいのか。もしもサプリメントが不要なもので、バランスのよい食事だけでオリンピックやパラリンピックで勝つことができる選手を育てることができていれば、現在のように一般の層にまで広がることはなかったでしょう。

では、仮にサプリメントを使わない場合には、どう対応すればよいのでしょうか。エネルギーを最も効率よく補給できるのは油(1g=9㎉)なので、例えば、「この食事では500㎉足りない」ということであれば、コップに約55gの油を用意して、苦痛かもしれないけれど一気に飲み干してはじめて、ようやく必要十分量のエネルギーに達しましたね、ということになるわけです。これでは当然、消化・吸収において支障を来すことはもちろん、「今日は運動量が多かったから、油もいつも以上に飲まなければいけないんだろうな」と憂鬱になり、そのうちに食事そのものが苦痛になってしまいます。

そうならないようにするために、個人の嗜好を踏まえつつ食事に対する喜びを提供すると同時に、いかに効率よく、創意工夫をして補っていくか。これを具現化することこそが、スポーツ栄養の腕の見せどころであり、アスリートには栄養サポートが求められる理由であると考えます。

一般社団法人 日本スポーツ栄養協会(Sports Nutrition and Dietitian Japan)
設立記念メディアセミナー 『スポーツ栄養の世界とは』
SPEACH:鈴木志保子(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会理事長、公益社団法人日本栄養士会副会長、神奈川県立保健福祉大学 教授)
TEXT:光成耕司

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