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「もしかしたら本気で野球をやるのでないか」学生の心を掴んだ取り組みとは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

本気を伝える

 グラウンドへ戻って、最初に手掛けたことはグラウンド整備だ。冒頭に書いたように、雪かと思った白く覆われたグラウンド、シロツメクサやぺんぺん草(ナズナ)、クローバーが生い茂り、花が咲き、そこをミツバチが飛び回る。のどかではあるが、とても野球をやる状況ではない。石ころもかなり落ちていた。

そこで、大学に芝刈り機を借りに行ったが家庭用の小さな芝刈り機しかなかった。芝刈りで半日かけて、外野の半分がやっと刈れる状態。また、翌日半分を刈る。全体を刈るのに三日間くらいは有に掛かるが、最初に刈った部分は三日目にはまたシロツメクサが生えてきて咲き乱れる。そんな事を繰り返しながら、先ずグラウンド、野球環境を整える事で野球に向かう心を彼らに知って欲しかった。

野球用具も大いに不足していた。ある時、ノックをやるために、ノックボールを持って来てもらうと、倉庫から2つのバケツに入った真っ黒な硬式ボールだった。

驚いた表情で私がボールを見ると、「これがノックボールです」と言われたので、即座に「これがノックボール?」と聞き返した。道具を揃えることも私の仕事になった。

社会人野球で当時強豪だった、大昭和製紙(北海道・白老)に先輩がいたので、そこからボールやバットを送ってもらい、支援して頂くなど色々な所から道具を集めた。その中には世田谷キャンパスで使わなくなった打撃練習用のピッチングマシンもあったが、オホーツクの選手たちにっとっては「マシンが来た!」と驚き、喜んでいた。

こうして、彼らにだんだんと私の野球に対する情熱と真剣さが伝わっていった。一ヶ月くらいすると、選手たちも石を拾うようになり、道具を磨くようになった。

この時ようやく「もしかしたら本気になって野球をやるのでないか」という予感を持てた。選手たちに私の心も伝わり始め、野球に対する立ち向かい方も変わってきた。その一歩ずつが、組織の変革にも繋がってきた。

やはり、組織を作る人間が本気でその姿を見せた時にその組織が動き出すのだと確信した。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。