21名での快進撃
こうした心のセッティングがしっかりと決まった効果か、開幕戦をコールド勝ちして波に乗り、5連勝で2部リーグで優勝する事ができた。
これは彼らの力で有り、彼らの勝つという強い信念で臨んだ結果だ。この信念の強さは驚くほどの力を発揮した。彼らは勝つことに執念を持ち、目の前の一つひとつのプレーをがむしゃらにやってくれた。
2部に上がったばかりの高校生みたいなチームが全勝で優勝する。これは大変なことだ。彼らは強い絆で立ち向かってくれた。下級生の結束力も凄かったが、それを支える上級生も凄かった。
私が最も記憶に残っている出来事は、室蘭工大との試合で1勝1敗で戦い、あと1勝で1部昇格という状況の時だ。
その当時のキャプテンを務めていた鈴木は、とてもひたむきな選手だった。秋田高校で甲子園にも出場経験がある選手だ。たまたまこの大学に来て、楽しく野球をしたいと思って野球部に入ったら、私が来てそれは一変。それでも彼は私の野球についてきてくれて、必死にキャプテンをやってくれていた。
鈴木には何かある毎に「お前はキャプテンだ、お前は甲子園に出ているのだから」と厳しくしていた。練習では泣きながらノックを受けていたこともあった。卒業後に一度会った時に、「なんで俺だけやられなくてはならない。なんで俺だけなんだ」と当時思っていたと話してくれた。
その時私は、キャプテンの姿を見て、みんなが辛い練習に耐えられると思ったのだ。 彼もまた「その時は分からなかったけれど、今ならそれがわかります」と言ってくれた。やはり、統率する力のある人間がいてくれたことは、大きなプラスになっていた。組織の中では、必ずリーダーシップを取れる人間を作らなければならない。また、嫌な事を嫌だと言わずにやれる人間が必要だ。鈴木は本当に嫌な役割を一手に引き受け、我慢して頑張ってくれた。秋田出身の東北人で、本当に黙々とそれらに耐えて、 1部昇格に向けて頑張ってくれた。
さらにもう一人核になったのは三枝だ。1部昇格はしたが、戦っても、戦っても4位の結果しか出せない事が続いた。それは何故かというと、新興勢力にいきなり1部で優勝、全国大会には出場させないという周りの意地もあった。
1部昇格後、優勝するまでに4季を費やした。その頃には最初の新入生名が最上級生になり、4年生になった時のキャプテンが三枝だった。その当時の私はまだスパルタバリバリ。私の言う事は絶対で必ず遂行しなければならないというチームだった。先ほどの鈴木同様に三枝キャプテンも本当に意志が強く、良いキャプテンであった。夏の遠征で社会人などの強いチーム相手に、私はむちゃな作戦を立て、無理難題を彼らにぶつけた。
しかし彼らは一生懸命それに応えようと努力した。これも後に聞くことだが、三枝キャプテンを中心にみんながミーティングをしている時、「こんなことは無理、できない」と意見が出たそうだ。しかし、三枝キャプテンは「監督がやれと言ってるのだからやらなくてはならない。やる事が俺たち選手の使命なんだ」と、ミーティングの混乱をその一言で収めたらしい。それに対して他の選手たちも「キャプテンが言っているのだから、やるしかない」とまとまったとのことだった。ここでもやはり、統率力のあるものが組織には必要で、この2人のキャプテンに共通していえる事は、人として慕われている事。人としてみんなから愛されているという事。人格が人を動かす。そういう核となる人間を育てる事が重要で、組織作りの中でも大切なことだ。
出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉
『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉
多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。
公開日:2022.02.09