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脱スパルタがチームを一段と大きくした理由とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

スパルタからの脱却

 私は当時、スパルタで選手たちを鍛えた。最初に獲ったスポーツ推薦選手を集めた時も、高校から上がって来たばかりの選手たちに言って聞かせた。「お前たちは勝つために集められ、勝つために入って来た選手だ。1部に上がるのは当たり前。1部で優勝するのは当たり前。その為に集められたのだから。1部に上がるまではお前たちは俺の駒となって働くように。不平不満を言わない事、絶対服従で行動すること」「勝つためなのだから耐えろ」という、本当に壮絶なものだった。

当時はそうした指導がまだ許されていたが、昨今では決して許されない。そんな時代でもない。その時代の選手たちは本当に大変だったと思う。これが彼らの中での不条理、不道理であって、それに耐える事が彼らにとっての第一の試練だった。

最も思い出に残っているのは、バントを失敗した選手を試合の途中に外し、グラウンドの外を走り続けさせたことがある。「俺がいいと言うまで走れ」と言い、試合が終わり、反省練習も終了したので、私は選手を車に乗せて合宿所に帰った。大学の監督室に戻った時、その走らせた選手がバスに乗っていない事に気が付いた。

慌てて試合球場の予備グラウンドに行くとその選手は黙々と走り続けていた。スパルタ指導の象徴的な出来事だろう。言われた事はやらなくてはならない。失敗をすれば罰を与えられる。選手から言わせれば地獄のような練習だったと思う。

こうした指導を行う理由は一つの妥協を許すと、すべてが妥協になってしまうからだ。スパルタ=しごきと思われるが、スパルタの根本にあるのは、ミスをしない心を作ることだ。ミスの繰り返しをしない選手に育てるためだ。それを身体で覚えてもらう、という指導法だった。

近年は人のミスを見て見ぬふりをし、自分のミスをどうにかして隠そうとする風潮がある。これは絶対に良くないこと。ミスはミスで認め、反省し二度と繰り返さないように自分に言い聞かせ、自分でできるようになるのが一番なのである。

 

ただ未熟な選手たちはそれができない。失敗を繰り返す選手は、引き出しが少ない。反対に引き出しの多い選手は、その多い選択肢の中からどれを選ぶべきかを瞬時に判断し失敗を避ける。その引き出しを増やすことと、その引き出しの選択をさせることで身体に染み込ませるのである。

しかし、それを自分の意志としてやるのではなく、やらされているという形になってしまう。これでは到底、上のクラスの選手、ひいては優秀な社会人にはなれない。

このスパルタの教育方法は、ただ反射的にやることであって考え方が伴わないと失敗を繰り返す選手が多い。そんなことにある時に気がついた。

そこで脱スパルタを思い切って断行してみた。

ある時、投内連携の練習で何回やっても、繰り返し同じミスが出る。本来であれば、そこで罰を与えるが、このやり方ではこの上のクラスには行けない、上のクラスの選手は育たないと感じて、選手たちに伝えた。

「俺はもう、お前たちに罰を与えることをやめる。お前たちが自分たちでミーティングし、自分たちでやれることを考え、自分たちで何をしなくてはいけないのかを考えるように」

それから1ヶ月間、私はグラウンドに出なかった。グラウンドに出ないということは、私自身も辛く試練だった。学生たちは当初、私がグラウンドに出て行かないので「楽ができる」と考えただろう。しかし、日にちが経つにつれ、リーグ戦の開幕が近づき、選手たちも焦りが出てきた。「自分たちでやらなくてはいけない」という心が芽生えた。

私は大学の建物の最上階から、彼らには見つからないように練習を見守っていた。彼らは彼らなりに考え、色々な動きを何度も何度も繰り返し練習していた。その時に中心になるのはやはりキャプテン、上級生たちだ。彼らがチームを引っ張り、チームがまた一段と大きくなれたように感じた。

脱スパルタ。これは当野球部にも大きな転機だった。丁度そんなことを優勝する1年前くらいからやり始め、選手たちが自分たちで考える事ができるチームになり始めた。このようなチームになると、大人のチームになっていく。個々が磨かれ、また個々が注意し合い、叱咤激励し、伸びていった。これが組織を作る時にも重要だ。お互いが高め合い、認め合う。そんなチームが出来上がってきていた。これもまたどの組織にも必要なことだ。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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