常勝軍団になるために
野球部も様々な事を経験しながら、1つ上のクラスのチームに成りつつあった。ただそれは地方リーグの中の話であり、まだまだ全国大会で通用するチームではなかった。道内では勝てるが、全国ではもう一つ上位に食い込めない。何が足りないのか?と自問自答した。
常に勝つことを義務付けられ、常に勝利を追いかける常勝軍団になるには、どうすべきなのか?その点に毎日のように頭を悩ませた。ぺんぺん草を刈り取ったり、部員集めにあの手この手を使った初期に比べれば、悩みの質も向上していた。だが、ここで満足しているのなら網走にまで来た意味は無く、私に白羽の矢を立てた先生方にも顔が立たない。
努力を惜しまずに全力で戦うチームカラーは定着しているが、それだけでは常勝軍団にはなれない。全国大会に行って常にベスト4まで入るチームが本当の常勝軍団だと思っていた。そこで、何をプラスしたらいいのか、何をどのように考えたらいいのか試行錯誤していった。
まずはチームの弱点、自分の弱さを知り、それを克服すること。これは社会でも言えること。虚勢、はったり、学習の無い行動、これらは自信の裏付けにはならない。常にトップに立っているためには、自分の弱さを知り、克服するための努力をしなければならない。
監督という指導者の弱さを自分なりに分析することにした。私はもともと野球選手としては、大した記録もない選手であるから、技術に対しての裏付けがない。選手としての経験値が無い。そんなことを感じ、ある時からプロ野球の春季キャンプを毎年訪れるようにした。
特に守り抜く野球をやる広島カープのキャンプには何回も足を運んだ。それは見る者を圧倒するような守備練習であり「点を与えない!」という意識の高さが伝わる野球だった。守備の上手・下手ではなく「この1球は絶対にアウトにする」という執念を感じた。企業人でも、自分が任された仕事は全力で挑み、自分ができることをすべてぶつける。常勝、常にトップで勝ち続けるためには、常に前向きに謙虚な姿勢で何事にも向かうことが必要だと感じた。加えて、自分たちがトップにいるプライドを持ち続ける事だ。それは、ユニフォームの着こなし、グラウンドに出た時の姿、その一つ一つが常勝軍団として「恥ずかしくない姿ではないか?」と問い続けなくてはならない。
他校がウチのユニフォームを見ただけで、勝てないと思うくらいの圧倒的なオーラを出し続けなくてはならない。ウチの大学は北海道にいる限り、この地域の他のチームから強いチームと恐れられるが、この頃はまだまだ全日本に出場しても、北海道の田舎のチームと思われていただろう。
現に大学選手権時に、心無い相手側から「田舎者、北海道に帰れ」とヤジを飛ばされたこともある。私はそれを忘れはしない。試合後に連盟を通して抗議した。私は北海道の代表というプライドを持ち、北海道の代表だからそのような罵声を許してはいけないと思った。その後、調査の結果、その発言を選手が認め謝罪の文書と言葉を頂いた。この時、初めて全国でも「プライドを持った北海道のチームだ」と認識された。自分の弱点を知ると同時に自分でプライドを持つこと、これが常勝軍団になるための絶対条件だと私は考える。
出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉
『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉
多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。
公開日:2022.02.14