泣き虫だけどタフ
井口和朋 2015年度卒・日本ハム(2016-)
井口は泣き虫な男だった。武相高校の試合を観に行くと、いつも打たれて監督の桑元孝雄(現東農大コーチ)にメチャクチャ怒られて、悔しがっている姿を何度も観ていた。泣いている時もあったから「ここで泣くな。頑張れよ」とよく声をかけていた。勧誘する際にも桑元から「根性が無いですけど大丈夫か?」と聞かれたくらいだった。
地元の大学にも誘われていたが、「プロに行きたいか?」と聞くと「はい」と答えるので「じゃあウチに来い。一生懸命やったらプロに行けるぞ」と声をかけた。ちょうど1つ上に風張と玉井がいたので、中継ぎで経験を積むこともできたし、先発で井口がダメでも2人がカバーしてくれていた。
努力もよくしたし、頭が良かった。「これをやれ」と言うと、自分でアレンジして合理的に練習ができた。ある時、ストップウォッチを自分で持って来たことがあった。レフトとライトのポール間のタイム走で、私はわざとタイムが切れていても、追い込むために「切れてない。もう1本!」と言うことがあったが、井口は自分でストップウォッチを持って走って、「監督さん、タイム切れてますよ!」と言ってきた。後にも先にもそんな選手は井口しかいない(笑)。
3年の秋には全国ベスト4に行けたので、侍ジャパン大学代表にも彼を推薦した。周りにはドラフト1位候補もたくさんいた。当時の井口はまだプロと言えるレベルではなかった。だからこそ代表の善波達也監督にはこう言った。「ドラフト1位候補を壊したら大変だぞ。その点、ウチの井口は3球で肩ができるし、どんな状況でも投げるから使っていい。でも、なるべくマスコミが多く来ている日に使ってくれよな(笑)」
すると日本での合宿中の練習試合でも国際大会(ユニバーシアード)本戦でも雨の中でも投げた。こちらの寒さに慣れているので、いつでも半袖で、腕を思いきり振って投げて相手打線をねじ伏せた。スカウトもそれを観て「馬力もあるし、いつでも行けるタフさがある」と評価してくれて、ドラフト候補に。それでプロに行けたのだから、善波監督に感謝するとともに、私の立てた作戦も大成功だった。玉井や井口はまさに〝雑根〟の精神を持つ選手だった。踏まれても蹴られても花を咲かせる力があった。
出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉
『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉
多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。
公開日:2022.02.26