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「プロになれるぞ」と洗脳し導いたソフトバンク周東佑京のプロへの道とは!?【東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方】

Text:樋越勉

「プロになれるぞ」と洗脳した球界屈指の韋駄天

周東佑京 2017年度卒・ソフトバンク(2018-)

 2011年の夏。附属校である群馬の東農大二高を訪れると、体の線は細いが足が速くて、走り方も綺麗な選手がいた。それが初めて周東を見た瞬間だった。二高の監督に聞けば、まだ1年生だという。その場ですぐに声はかけなかったが「2年後楽しみだ」と感じた。

ところが2年経つと「楽しみ」どころではなくなった。あまりの俊足ぶりにプロ球団のスカウトたちが続々と視察に訪れた。私にとっては是が非でも欲しい選手。まだ線も細く、攻守とともにもっと鍛えてからプロに行くべきとも考えた。

第一、当時の周東は自らの能力に一番気づいていないのではないか? と思うほど、プロ野球選手になることを現実的に考えていなかった。私は周東を獲得すべく毎週のように網走から二高のある群馬へと通った。「必ず4年後、プロに行かせてやる!」

 

そう口説いても本人は返事をしながらも、頭にはクエスチョンマークが浮かんでいるようだった。当然、他の大学からも声は掛かっていたが、監督たちに「附属校の子だから、なんとかそこは」と頼み、引いてもらった。 彼の本音としてはウチの世田谷キャンパスに行きたかった気持ちもあったようだが、遊ぶような場所などまるで無く「野球と勉強をするしかない」と言える網走の環境の方が合っていたように思う。

 

網走は白夜で夜の2時半くらいから明るい。明るかったら練習しない理由は無いということで彼らは朝4時半に起きて、寮から大学までの7キロを走り、朝6時からの練習に参加した。入学当初から言い続けたのは、「しっかり振れ」「体を大きくしろ」という2点だった。1年時は内野手に良い上級生もいたためレフトで使った。選手権にも1年生ながらレギュラーで出場。その後はサードやショートもやった。どこでも守れるようになった方が良いというのはもちろんだが、フル出場で使いたいがための策でもあった。たくさん打席を与えれば、打席での経験だけで進塁や盗塁の経験値も増やしていけるからだ。

 

彼にはほぼ「いつでも走ってよい」というサインだったが、最初はなかなかスタートを切れなかった。だから「勇気を持て。打席でもどこの塁でもアウトになればだ」と説いた。また、打撃に関しても足が速いからといって、内野安打のためにサードゴロやショートゴロばかり打っていては先がない。「〝当て逃げ〟じゃプロに行けないぞ」と言い続けた。これは稲嶺にもよく言っていたことだ。足が速い選手はどうしても足の速さ〝のみ〟を生かそうと思ってしまうが、大学の時点でそうなってしまったら、プロの世界で生きていけない。

  

彼は真面目で一生懸命。毎年春前に行う沖縄キャンプでは、手のひらが潰れたマメだらけでボロボロになるまで振り込みをさせた。 ドラフトの結果は育成選手としての指名だったがソフトバンクに入れたことは彼にとっても良かった。2015年に息子の優一(現ソフトバンクスタッフ)がいたため、〝父親〟として施設を見学したが、他球団とは比べものにならないほどの充実度に驚いた。

 

ピッチングマシーンが常に6台ほどあっていつでも打ち込みができるし、食堂はレストラン、トレーニングルームはフィットネスクラブのようだった。また育成選手を中心とした三軍でも年間80試合近くが組まれ、実戦経験も豊富に積める。ここならば彼も順調に成長できるのではないかと思った。

 

 唯一、不安だったのは、あまり出しゃばる性格ではなかったことだ。厳しいプロの世界でどうなることかとは懸念していたが、これは杞憂だった。とはいえ、まさか侍ジャパンに入る選手にまでなるとは思わなかった。彼の活躍をこれからも楽しみにするとともに、レギュラーとして長年活躍する選手になってもらいたい。

出典:『東農大オホーツク流プロ野球選手の育て方』著/樋越勉

『東農大オホーツク流 プロ野球選手の育て方』
著者:樋越勉

多くのプロ野球選手を輩出する北の最果て、北海道網走市にある東京農業大学オホーツクキャンパス野球部。恵まれた施設環境ではないにも関わらず、なぜ有力選手が育つのか⁉東農大学野球部のカリスマ、樋越監督の選手を見抜く眼力と、その育成術を紹介‼プロ野球選手の育て方、ドラフトへ送り込む手腕、練習環境の整え方などを、具体的に解説するプロ野球ファンや指導者必見の一冊。愛弟子の周東佑京のコメントも収録。

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