健康増進などの運動効果も見られる
私たちはエキセントリック運動の効果を探るため、2017年に「階段歩行研究」を行いました。
60歳以上の肥満女性をふたつのグループに分け、ひとつのグループはビルの6階から1階へ階段を下りるだけの運動を、もうひとつのグループには1階から6階まで階段を上るだけの運動をしてもらいました。
すでにご紹介したように、階段を下りる動きは、膝を曲げる太ももの筋肉(大腿四頭筋)が収縮しながら伸ばされる、エキセントリック運動です。実験は週2回、12週間行いました。1週目は階段の下り、上りを2回繰り返すだけでしたが、1週間ごとに歩行距離を伸ばしていき、12週目には24回繰り返しました。
みなさんは「主観的運動強度」という言葉をご存知でしょうか。
これは自分が行っている運動が「楽なのか、きついのか」、その感覚を数値化したものです。階段歩行研究のふたつのグループでこれを比較したところ、階段を上るグループは「きつい」と感じ、階段を下りるグループは「楽だ」と感じていました。
また、階段を上るグループのほうが、体に取り入れる酸素の量が多く、心拍数も高くなりました。たくさんの酸素が必要なのは、息が切れるということです。心拍数が高いのは、心臓がドキドキしていることを示しています。ここからわかるのは、階段を下りる動作、すなわちエキセントリック運動は「気持ちも体も楽に行える」ということです。
そしてさらに驚きの実験結果が出ました。階段を下りるグループの方が筋力の向上が目立ち、椅子からの立ち上がり能力、歩行能力などがアップしました。それだけではありません。骨密度の高まり、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールの減少、インスリンの感受性の高まりなど、さまざまな健康効果が数値として表れました。
エキセントリック運動は、筋力を向上させるだけではなく、健康増進にも高い効果を上げることがわかったのです。
【書誌情報】
『ゆ〜っくり座れば、一生歩ける!』
著:野坂和則
一生歩ける足腰はゆ〜っくり座ることで鍛えられる!「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」である健康寿命は、男性は約72歳、女性は約74歳です。誰でも歳をとるにしたがって身体機能は衰えていきますが、その衰え方には大きな個人差が。その個人差の要素のひとつが「運動」です 。運動をしている人とそうでない人では、健康寿命に大きな差が出てきます。運動といってもいろいろありますが、健康寿命を高めるには脚の筋力を維持し、向上させる筋力トレーニングが必須です。しかし、そうは言っても普通の筋トレはつらそうだし、なかなか重い腰が上がらない……という方にこそ実践して頂きたいのが本書で紹介している「エキセントリック運動」です。ゆ~っくりイスに座る時、大腿の前側の筋肉は伸ばされていきます。これが典型的なエキセントリック運動です。本書では、自宅でできるエキセントリック運動を紹介しており、どうしてエキセントリック運動が一生歩けるような足腰をつくるのに適しているのか解説しています。試しに、ゆ~っくりイスに座ってみて下さい。それだけでもかなり脚に効いていることがわかるはず。つらくないのに効果は絶大――。エキセントリック運動をすれば、10年分の筋力低下を、たった2ヵ月で元に戻すことも可能です。転ばぬ先の杖、一生歩ける体でいられるように、今日から準備を始めましょう。高齢者の方はもちろん、家族全員でぜひ読んで頂きたい一冊です。
公開日:2020.02.11