貧血にもさまざまな種類がある
競技パフォーマンスに影響を及ぼす内科的疾患の1つに貧血が挙げられます。
貧血というと朝礼などで長時間立っていたときに、フッと目の前が真っ白になって倒れてしまうような光景を思い浮かべるかもしれません。
これは脳貧血といって長時間立っていると、重力などの影響で十分な血液量が脳に届かなくなることで起こります。
一般的に貧血は「血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態」を指すのですが、こうした立ちくらみなどは血液の成分が影響するものではないため、厳密にいえば貧血とは分けて考える必要があります。
椅子から急に立ち上がったときに目の前がクラッとする起立性低血圧も血圧や自律神経の影響によって起こるものであり、血液の成分が問題ではありません。
十分に食事をしていない状態や、精神的な緊張が続く状態で長時間立っていると起こることもあります。
アスリートに見られる貧血として代表的なものに鉄欠乏性貧血が挙げられます。
体のすみずみにまで酸素を運搬するヘモグロビンは鉄分を元につくられますが、鉄分が不足すると血液中のヘモグロビン濃度も下がります。
貧血全体の約7割がこの鉄欠乏性貧血だといわれています。
貧血はどちらかといえば女性に多く見られる内科的疾患ですが、アスリートに限っていえば男性にもよく見られます。
日頃から激しく体を動かすアスリートは、大量の汗をかくことによって汗の中に含まれるミネラル分が失われ、鉄分も汗とともに体外へ排出されてしまうことが知られています。
一般の人よりもたくさん汗をかくアスリートは、より多くの鉄分が汗とともに失われるので、鉄欠乏性貧血を起こしやすいと考えられています。
この他にも溶血性貧血や失血性貧血といったものがあります。
溶血性貧血は主に長時間、足裏に負荷をかけ続けるマラソンなどの陸上長距離走や、素足で強く踏み込む動作を繰り返す剣道、空手道などに見られるといわれています。
空手道の場合は足裏だけではなく、握った拳にも繰り返し大きな力が加わります。
強い衝撃によって赤血球の細胞膜が壊れてしまい、それが原因となって起こるものですが、体内の鉄分が過剰になってしまうことでも細胞膜が壊れやすくなるといわれています。
さほど鉄不足でもないのに、自己判断で鉄分のサプリメントを飲み続けていると溶血性貧血を起こす可能性があります。
失血性貧血は潰瘍性大腸炎やクローン病などの腸の病気によって腸壁から出血し、それによって貧血を引き起こすというものです。
食事内容や食事量に問題がない選手でもこうした失血性貧血を起こしていることがあるため、食事面での改善によっても貧血状態が続く場合は医療機関で尿検査、便検査などを行い、調べてもらうようにしましょう。
【書誌情報】
『基礎から学ぶ スポーツセルフコンディショニング』
著:西村典子(アスレティックトレーナー)
近年、セルフコンディショニングという言葉を聞けば、自分自身で自分の体を良い状態に保つための取り組みであることが理解されるようになってきましたが、やはり、その内容は奥が深く、まだまだ正しい知識が広まっていないのが現状です。そこで、本書では、数々のプロスポーツ選手を指導した経歴を持つ日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーである西村典子氏による環境に頼らず自分自身をアップデートする基礎から学ぶセルフスポーツコンディショニングを3つのパートに分けてわかりやすく紹介。結果を出すアスリートは必ず実践しているコンディショニングは必見です。
公開日:2019.09.18
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