熾烈な優勝争いの中、千葉ロッテマリーンズに力を与えたのは間違いなくこの男だった。優勝争いが激しさを増した9~10月に調子を上げ、自身初完投を含む3完投(2完封)。惜しくもリーグ優勝は逃したが、まだ“日本一”への道は途絶えていない――。クライマックスシリーズ直前、ロッテ投手陣のキーマン・小島和哉に今年6月以来、二度目のインタビューを緊急敢行!(取材日/2021年11月3日)
美馬さん、マーティンの言葉で
“開き直る”ことが出来ました
――まだポストシーズンは残っていますが、まずはシーズン143試合、お疲れ様でした!
小島:ありがとうございます!
――シーズン最終登板の10月27日楽天戦から約1週間が経ちました。クライマックスシリーズ(以下CS)に向けて、どう過ごしてきたのでしょうか。
小島:最後の登板から日にちも経っているのでしっかり身体は休めていますし、これから試合も続くので、そのための準備もしっかりしているところです。
――最終登板からCS初戦までは中9日。この期間は「休む」ことと「調子を保つ」こと、どちらを重視されるのでしょう。
小島 シーズン最後の登板の2週間前から、これからやってくるCS、日本シリーズに向けて練習の量を少し上げました。この1週間は走る量はしっかりキープしつつ、ウェイトトレーニングの量を少し抑えるなどして、状態を上げることを意識しています。
――終盤からポストシーズンに向けて、むしろ少し「追い込む」くらいのイメージ?
小島:調子を維持するためだけのトレーニング量だと、どうしてもどこかで「落ちる」時期があるので、(トレーニングの量を)上げるところ、下げるところは意識しています。
――前回6月のインタビューでは「イニング数を増やしていきたい」と自身の課題を話していただきましたが、終盤の9~10月にかけて9月11日に初完投、19日に初完封を記録するなど、実際にイニング数が伸びました。その要因はどこにあったのでしょう。
小島:後半戦がはじまってすぐの2試合で結果が出ず、少し弱気になってしまった時期があったんです。そのときに美馬(学)さんやマーティンにアドバイスをもらって、自分の中で考え方を切り替えることが出来ました。
――「2試合」というのは8月25日、9月3日の日本ハム戦?
小島:はい、2試合とも5回持たずにノックアウトされて、自分の中でも「これはヤバい……」と気持ちが落ちていました。でも、切り替えて臨んだ次の試合(9月11日楽天戦)で初めて完投することが出来た。周りから見ればたった一回の完投かもしれないけど、僕の中ではこの経験がすごく大きかったんです。
――自信につながった?
小島:「なんだ、9回まで、体力もつじゃん」って(笑)。これまでは6回、7回まで試合を作ることを一番に考えていたんですけど、終盤にギアを上げても最後まで投げ切れる。それができたことで、殻を破ることが出来たような気がします。
美馬からは「楽しもう」
マーティンから「もっと大胆に」
――一度の完投が、自分の投球を大きく変えてくれた。
小島:長いイニングを投げようと思ったら、どんどんストライクを取っていかないといけないんですけど、ピッチャーなんで当然打たれたくはない。そうなるとどうしても際どいところで勝負をせざるを得なくて、結局最後の一球が甘くなって打たれてしまう。そんなケースが僕自身、何度もあったんですけど、あの試合を境に「打たれたらまた練習すればいい」くらいの感覚になれたんです。開き直りに近いですかね(笑)。
――そのキッカケが、美馬投手、マーティン選手からのアドバイスだった?
小島:美馬さんとは全体練習が終わった後にウエイト場で一緒になることが多いんですけど、僕が基本ネガティブなんですね(笑)。そこで「もう、ダメです……」と口にしたら「それでも投げるチャンスをもらえているんだから、怖がっていないで、打たれてもまたやればいい。せっかく6人で回している先発ローテーションに入れてもらっているんだから、楽しんで投げなかったらもったいないよ」と言ってもらいました。その言葉で「あ、そのくらい開き直って投げてもいいんだ」と思えるようになったんです。
マーティンからは左打者に対する攻め方をアドバイスしてもらいました。前半戦はほとんどインコースを使っていなかったんですけど、「そういう(インコースを突く)ボールがないとバッターは怖くない。もっと大胆に攻めてもいいんじゃないか」と言ってもらえて、実際に試合が終わったあとにも「今日のあのボールは良かったね」「あれならもう一球いける」など、細かな話もしてくれました。
――「バッター目線」のアドバイスも効果的だったんですね。
小島:それまではバッターから圧を受けてしまう場面が多かったんですけど、僕のイメージとバッター心理は少し違うんだと気づくことが出来ましたね。怖がってばかりいないで、バッターも嫌なことがあるんだと意識した最初の試合で、初完投することが出来ました。
――以前、この「ラブすぽ」で取材した安田尚憲選手もマーティン選手のアドバイスを受けて自分の中の意識が変わったと話してくれました。外国人選手でそこまでチームに影響力のあるタイプも珍しいと思うのですが……。
小島:僕はたまたまロッカーが隣なのでよく話をするんですけど、ケガをしていた期間もずっとチームの試合を観ていて、次に会ったときに「あの試合のあのボール良かったね!」って僕より憶えているくらいなので。チーム愛は凄く強い選手ですね。
――ノックアウトされた2試合以降は、見違えるような投球でした。
小島:正直、次でダメなら二軍に落ちることも覚悟していました。そこで完投できたので美馬さん、マーティンには本当に感謝しています。
負けられない試合だからこそ
目の前のことだけに集中する
――初完投を記録した次の試合で初完封。そこからチームはヒリヒリするような優勝争いを展開しました。小島投手自身、調子が上がっきた中で「大事な試合」を任されるケースが多かった。
小島:もちろん、どの試合も「負けられない」という思いでマウンドに上がっています。だから、なるべく余計なことは考えずに、目の前の打者を打ち取ること、それを積み重ねることが結果につながるんだという思いで投げていました。初完投した試合がそうだったんです。1イニング投げ終わったら、次のイニング……。そうやって9回まで投げ切れたので、最後までその気持ちだけは忘れたくなかったです。
――チームの順位やゲーム差はなるべく意識しないようにした?
小島:もちろん、どうしても「この試合で負けたらオリックスにマジックが点く」とか「この試合で負けたら優勝を逃す」という情報は耳に入ります。でも、だからこそ変な意識は持たず、逃げて四球を出したりするのではなく、真っ向勝負で打たれたら「すいませんでした!」というくらいの気持ちは持っていました。
――そういう意味では自分の投球は最後まで貫くことが出来た。
小島:最後の登板は欲を言えば9回まで投げ切りたい気持ちはありましたけど、7~9回に超一流のピッチャーが控えているので、そこに繋ぐことを最低限の仕事だと考えていました。結果としてチームを勝ちに導くことはできなかったので「良いピッチング」とは言えないですけど、その仕事は出来たかなと思います。
――その一方で10月12日のオリックス戦、今話していただいた27日の楽天戦ではベンチで涙を流すシーンもありました。その「悔しさ」は今も残っている?
小島:僕だけじゃなくて選手全員が「あそこで抑えていれば」「あそこで打っていれば」という悔しさは持っていると思います。結果として1つのプレーで順位が入れ替わっていた可能性もあるわけですから。でも、それも野球の面白さなのかなと今は思っていて……。打たれないのが一番いいですけど、そこが自分の弱さなのかなとも感じているし、CS、日本シリーズ、来年と、絶対にあの試合を思い出すことがあるはずです。そういう場面で抑えることが出来たら、「あの時打たれたことを、次につなげることが出来た」と言えると思うので、そうなれるように、同じ失敗は繰り返さないことだけを考えてやっていきたいです。
――これからCS、その先には日本シリーズが控えています。小島投手自身はどういう投球を心がけたいと考えていますか。
小島:僕にとってははじめてのCSです。短期決戦の試合がシーズンとどう違うのか、正直今は分かりません。そこは自分で意識して何かを変えることはできないので、シーズン終盤のように打者ひとり、1イニングに集中する。理想は9回を投げ切ることですけど、まずはしっかりとリリーフの人たちにつなぐことを考えて、仕事をしたいと思います。
――小島投手自身もマリーンズの選手たちも、CSに向けて切り替えは出来ている?
小島:もちろん、選手全員が悔しい気持ちを持っていると思います。だからこそCS、日本シリーズを勝ちたい。チーム全員、その気持ちで残りの試合に臨みたいです。
――貴重なお時間、ありがとうございます。CS、日本シリーズでの活躍、楽しみにしています!
協力:千葉ロッテマリーンズ
インタビュアー:花田雪
公開日:2021.11.05