陸地か否か、二つの極圏で異なる条件
世界での最低気温の記録は南極のロシアのボストーク基地で1983年7月に記録されたマイナス89.2℃です(2008年8月10日、衛星データの分析により、南極大陸東部の高地でマイナス93℃を記録したとの情報もある)。ところで、同じ極点である南極点と北極点は同じように寒い地域とみられていますが、実際にはどちらの気温のほうが低いのでしょうか。
これを比較するうえでは、それぞれの極点の存在する場所の地形や環境を考えなくてはなりません。北極は海洋の上に海氷が広がった場所であり、よって標高は低くなります。ですが、南極は大きな大陸の上にあり、さらに厚い氷河におおわれて標高も高くなっています。したがって、単純に比較するうえでは、標高の高い南極点のほうがそのぶん気温が低いといえます。
次に海の影響をみてみましょう。海水には土や岩石と比べて暖まりにくく、冷めにくいという性質があります。そのため海の近くの土地では内陸に比べて温度の変動が小さく、マイルドな気候になるという特徴が現れます。例えば、日本の関東地方を参考にしてみると、海岸にある千葉県の銚子は内陸にある栃木県の宇都宮と比べての夏季の最高気温は約4℃低く、冬季の最低気温は6℃も高くなっています。緯度が北緯35度、36度ほどであまり差がないのですから、これなどまさに海岸地帯と内陸地帯の温度差を示しています。
地球上のさまざまな地点では、内陸に行くに従って気温の年変動の大きさが拡大するという傾向があるために、気温の年変動の大きさを用いて大陸度という指標で示すこともあります。南極点は大陸の内部にありますので気温も低くなります。一方、北半球での最低気温の記録はWMO(世界気象機関)によるとマイナス67.8℃。場所はロシアのベルホヤンスクで1892年2月、同じロシアのオイミャコンで1933年2月にマイナス67.8℃を観測(観測機器の精度の問題があるため、2地点が報告されている)、海氷域も含めて内陸的な場所で記録されたわけです(北極点での最低気温はマイナス43℃ほど)。
ところで、海氷におおわれた平原では、氷が断熱材として働くため、海洋からの熱輸送は小さくなり、陸上の氷原と同じような特徴を持ちます。例えば、北海道のオホーツク海側の気候は流氷が来ると内陸の気候に近くなりますが、流氷は厚さもなく、海洋からの熱輸送もなくなるわけではないので、大陸の内部のようには低温にはなりません。
次に、南極の気温を考えるうえで重要なのがその地理的位置です。南極大陸は他の大陸から離れて存在するため、低温の空気の蓄積によってできた極高圧帯から低緯度に向かって風が流れ出し(極偏東風)、上空でもとに戻る循環系を持っています。
そして、より低緯度側では強い西風が卓越する中緯度偏西風帯があり、これが強いためにさらに低緯度の暖かい空気とは隔てられ、いわば孤立した低温の気団が成長しやすくなります。海洋についても、北半球とは異なり強い南極周極流が取り巻いているため、海流による熱の輸送が妨げられています。また、南極の氷河は3000〜2500万年前に南米のドレーク海峡が開いて南極周極流が形成されてからさらに成長したとみられています。つまり、北極と南極では、このように南極のほうが低温を保つことができるため気温がより低くなるのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 地学の話』
【書誌情報】
『図解 地学の話』
著者:高橋正樹 他
地学は「地球を対象とする自然科学」の学問。ジャンルが幅広く興味深い話題も多い。地球の誕生から、火山や地震のメカニズム、異常気象や天気図、地層・化石まで、「地球物地学」「火山学」「気象学」「地質学」の4テーマに分けて解説。図解で楽しくわかりやすく勉強になる1冊。
公開日:2022.02.28