巨大海サソリはそれほど怖くなかった?
古生代オルドビス紀中期から台頭するようになった新しい生物がウミサソリ類と呼ばれるグループです。現在のサソリ類に似ているところからこの名で呼ばれていますが、近縁ではあるものの別のグループとされています。
これまでに、北アメリカやヨーロッパなどの世界各地で約250種が確認されていますが、日本からはまだ化石は見つかっていません。また、サソリに似てはいても、毒針をもつ種もまだ発見されていません。「ウミ」とつくものの、淡水や汽水域に生息する種もいました。
アクチラムスはウミサソリ類のなかでもとりわけ大型の種です。オルドビス紀に続くシルル紀後期の海に登場し、全長2メートルを超える化石も見つかっています。この巨体に加え、内側に鋭いトゲのついたハサミをもっており、「海の支配者」「上位の捕食者」と呼ばれる所以(ゆえん) です。おもに三葉虫や魚類などを襲って食べていました。
ところが、最近の研究では、この巨大ハサミは力が弱く、獲物を真っ二つに切断するどころか、長時間つかむことさえできなかったのではと考えられるようになっています。
また、素早く安定した泳ぎに適した構造ではあるものの、小型のウミサソリ類に比べて泳ぎの能力は高くありませんでした。
6対12本の足をもっていて、海中を泳ぐものと海底を歩くものがいました。一番後ろの1対がオール型になっているものは、比較的泳ぐことができました。印象的な幅広で大きな複眼も朝などの薄明かりに向いている構造だったことも明らかになりました。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古生物の話』
著者:大橋智之 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
大橋智之(おおはし・ともゆき) 北九州市立自然史・歴史博物館 学芸員。古脊椎動物担当。1976年、福島県生まれ。東北大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。日本古生物学会会員。
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公開日:2022.11.20